西村裕子著『皮革とブランド 変化するファッション倫理』(岩波新書)を読みました。

 

 私はファッションには本当に疎く、興味もありません。ただ、皮革と言えば民俗学的に興味深いものを感じたので本書を読んでみました。

 

 前半はヨーロッパの話が中心で、イタリアのファッション界における皮革について。イタリアと言えば高級ブランド品のイメージが強いですが、そのあたりについて述べています。

 

 ただ皮は死んだ動物を扱うため、皮造りは社会におけるマイノリティが担うことが多かったようです。ヨーロッパにおいてはユダヤ人が担いました。ユダヤ人がヨーロッパにおいて差別されてきたことは周知のことですが、現在では金融業のイメージが強いユダヤ人たちは、腕のいい皮なめし職人で、ギルドをつくって活動していました。

 

 中盤では、こうしたマイノリティと皮製品のイメージの結びつきが、例えば反体制をかかげるロックスターなどに引き継がれていったことが語られます。例えば、クイーンのヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーがゲイだったことは有名ですが、彼が皮のコスチュームを着てパフォーマンスしたことが言及されています。言うまでもなく同性愛者は社会のマイノリティです。パンクロックの雄、セックスピストルズも言及されます。クイーンもピストルズもロック・ファンの私にとってはなじみ深い存在ですが、こうした視点で考えたことがなかったため、興味深く感じられました。

 

 後半では日本における皮なめし技術について語っています。日本の高品質な革製品をいかにブランド化するか。とりわけ、後半はサステナビリティの話になります。動物の皮を使うということは、当然動物に負荷をかけることになり、動物愛護団体などから非難を受けることになります。そのあたりの折り合いをつけつつ、ファッションの一つとして、あるいは日本のブランド力を高める手段として、どう皮革とつきあっていくか、が今後の課題のようです。