吉見俊哉著『博覧会の政治学 まなざしの近代』(中公新書)を読みました。

 

 18世紀の大航海時代により世界各地の文物がヨーロッパにもたらされ、それが博物学の隆盛につながり、そうしたコレクションをいかに展示するかが問題になり始める。それが博覧会を生みました。今日でも美術展覧会、博覧会などが盛んですが、これらに加え、動物園、水族館などもこうした文脈で生まれました。帝国主義、資本主義経済がもたらした文化で、かつ本書の副題が示すように、視覚に淫した時代になったわけです。その過程をたどった本です。

 

 なんといっても万博がメモリアルな出来事で、1851年のロンドン万博、64年のパリ万博が前半では語られます。ロンドンについては、水晶宮という建造物も重要です。パリについて言えば、パリという街自体が展示を意識したものになっていて、これはオスマンによる第二帝政下におけるパリの改造計画、エッフェル塔の建設などと関わっています。

 

 また、この時代に発達したパノラマ、ジオラマの技術も博覧会と密接に関わっています。

 

 パリ万博からは日本も参加しており、2章では明治の文明開化と博覧会について述べています。周知のように、これを機にヨーロッパ人は日本文化にふれ、ジャポニスムが栄えることになります。本書の主眼は日本における博覧会の歴史、その役割の考察です。

 

 驚くべきは人間の展示まで行っていたという点で、ヨーロッパ人は各地の(彼等から見れば)未開人を連れてきては展示し、見世物にしました。また、大英博物館の所蔵品を略奪品であるとして、エジプトやギリシアは返還を求めているそうです。このように、今日まで問題を残しているという点も見逃せません。

 

 後半では1970年の大阪万博について詳しく論じています。私は生まれておらず、当時の熱気は知りませんが、資本主義経済の発達と国家権力の誇示としての万博であったことが語られています。来年開催予定の大阪万博については批判も多いようですが、万博の是非について考えるうえでも参考になるかもしれません。