逢坂剛著『わたしのミステリー』を読みました。逢坂さんの本は『百舌の叫ぶ夜』をまさに徹夜で読み通す勢いで読んだほどのファンです。『カディスの赤い星』はもちろん、冒険小説にしてトリッキーな『燃える地の果てに』も素晴らしい。著者の講演会に出席して、サイン会に参加し、サインをもらうなどというミーハーなことをしたことがあります。

 

 本書は逢坂さんのミステリ・エッセイ集です。著者自身がハードボイルド派であるため、そちらの作品への言及が多くなっていますが、本格ミステリの古典への言及も意外にあり、やはり本格ものもそれなりに好きなのだと思います。

 

 雑誌掲載の短いエッセイのコレクションであるため、各エッセイを隙間時間にさらっと読めます。

 

 若いころ読んで強い影響を受けたハメット、チャンドラー、ハドリー・チェイス、マッギヴァーンについて。ドロシー・ユーナックなど、今となっては名前を知っているミステリ・ファンも少ないと思いますが、女性警官ものの先駆的仕事をした人です。こうした作家の話が中心です。

 

 日本で言えば江戸川乱歩をはじめ、個人的親交のあった藤原伊織さんなどが言及されます。中盤は書評というか文庫本の解説のような文章が収録されていて、北方謙三『泡影』、横山秀夫『64』、池井戸潤『下町ロケット』、楡周平『修羅の宴』などについてのエッセイが含まれています。私は本格ミステリ派なので、ハードボイルド、警察小説はそれほど読んでいません。そのため、この箇所は読書案内としてうれしいところです。

 

 後半は大沢在昌、小鷹信光、木田元、今野敏の各氏との対談が収録されています。大沢氏がホームズ派、逢坂氏はルパン派でやりあっているのが楽しい対談です。逢坂さんは子供のころからルパン・シリーズが好きだったそうで、同じくルパンものを愛する私が逢坂さんの小説を好きになるのも当然かもしれません。