スコット・トゥローの『推定無罪』(上下巻)を読みました。

 

 1990年代のミステリは大きく2つの潮流-サイコ・サスペンスとリーガル・サスペンス―に分類されます。前者の起爆剤となったのが、トマス・ハリスの『羊たちの沈黙』。後者の場合は本書になります。映画化もされていて、ハリソン・フォードが主演しています。

 

 著者は執筆当時、現役の検事補でした。そのため(私自身がアメリカの司法制度に疎いのでよくわからないというのが正直なところではありますが)、法律に関する知識、法廷のリアリティなどは確かなものであろうと想像されます。アメリカの司法制度への批判も含んでおり、そこも本作が評価されたことの一因とされていますが、そのあたりも個人的にはよくわかりませんでした。

 

 地方検事を選ぶ選挙戦のさなかに、女性弁護士が殺害される事件が発生。遺体は全裸で発見され、性交した形跡が見られる。主人公は同僚の検事補と捜査に乗り出すが、実は彼は被害女性と不倫関係にあった。そのため自身が疑われるようになり、ついに殺人容疑で逮捕され、裁判にかけられる…というストーリーです。  

 

 上巻の途中から下巻の最後の方まで、おそらく半分以上が法廷のシーンです。検事が容疑者になるという逆転現象がスリリングで、かつ法廷で暴かれるのは出世欲、権勢欲、金銭欲、そして性欲といったいかにも人間臭い欲望です。果たして主人公は無罪を勝ち取れるのか、という興味で引っ張り、最後にはサプライズ・エンディングが待ち構えています。社会派として一級品で、かつミステリとしてもグレードが高くなっています。

 

 上下巻は少々長い気もしますが、さすがにブームの火付け役になった作品という感想をもちました。