檜山良昭さんの『スターリン暗殺計画』を読みました。日本推理作家協会賞受賞作。

 昭和13年、ソ連のリュシコフ大将が満州国に亡命した。この事件に関心を抱いた「私」(著者自身)は、リュシコフがもたらした情報をもとに考案された「熊作戦」と呼ばれるスターリン暗殺計画の全貌を探っていく、というストーリー。

 これはいわばドキュメンタリー小説です。著者の地の文は少なく、関係者へのインタビューが主要な部分を成しています。著者が歴史の闇に消えた陰謀を苦労しながら解き明かしていく過程が克明に描かれています。

 しかし、この作品は著者が序文で述べているように、あくまでフィクションです。リュシコフ亡命は事実ですが、そこから先は著者による虚構です。関係者への取材の場面など、本当にそうしたインタビューを行ったかのように書かれていて、著者の筆力には脱帽です。実在の人物の名前も多く言及されるので、知らないで読むと、スターリン暗殺計画は実在したと思う人がいても不思議ではありません。それだけ真に迫った「ルポルタージュ」です。反面、小説的な感動には欠けるきらいがあります。

 こうした手法に否定的な考えをもつ批評家もいるらしく、著者と論争になった、と解説にあります。私は、著者が最初にフィクションと断っているし、あくまで娯楽小説なのだから許容されるのではないかと思っています。実験的な試みであり、その意味でも評価に値すると思われます。

スターリン暗殺計画 日本推理作家協会賞受賞作全集 (38)/双葉社

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