ジュディス・C・ブラウン(Judith C. Brown)の『ルネサンス修道女物語』(Immodest Acts: The Life of a Lesbian Nun in Renaissance Italy)を読みました。最近読んだ『魔女と聖女』という本とのからみで、聖女とされた女性に関心があったため、読んでみました。

 英タイトルにはっきり書かれていますが、中世~ルネサンス期の女修道院ではレズビアニズムが珍しくなかったようです。修道院に入る女性は肉体の恋、結婚を放棄して、キリストとの霊的な恋、結婚を目指すわけですが、実際には男性のいない世界でレズビアン行為が行われていたようです。

 16~17世紀のイタリアで聖母修道会女子大修道院長にまでなったベネデッタ・カルリーニという女性が体験した数々の「奇蹟」と、それゆえに行われた宗教裁判を、メディチ家にのこされた文書から発掘、考察した本です。ベネデッタはしばしばキリストの出現という奇蹟に遭遇し、聖痕を受ける。さらには、出現したキリストの霊?(英語ではapparition)によって心臓を抜き取られ、再び心臓を戻されたりする。こうした奇蹟体験を通して、ベネデッタは神聖視され、修道院長にまでなる。しかし、こうした「出現」との遭遇は、悪魔に騙されている可能性もあり、彼女は宗教裁判にかけられ、最後には有罪判決を受け、投獄される。裁判ではベネデッタと一緒に出現を目撃したとされる女性と実はみだらな行為に及んでいたことが暴露された。

 修道院の問題は性の問題と切り離せず、キリスト教世界におけるセクシャリティを考える際、重要な手がかりを与えてくれると思います。なぜキリスト教世界で女性が「奇蹟」を体験するのか(例えばルルドの泉の奇蹟)?なかなか示唆に富んだ本でした。

 なお、修道院における女性を描いた映画に、以前このブログでも紹介したオードリー・ヘップバーン主演の『尼僧物語』があります。これはヘップバーンの最高傑作ではないかと密かに思っています。また、『尼僧ヨアンナ』は、今回読んだ本とも共通する内容を含んだ興味深い映画です。尼僧が悪魔に取りつかれる、という話で、『エクソシスト』の先駆とも言える内容です。抑圧され、閉鎖環境におかれた女性の性を描いた作品で、結構衝撃的な内容です。


尼僧ヨアンナ [DVD]/紀伊國屋書店

¥5,040
Amazon.co.jp