サンダンス映画祭 | ハリウッド映画音楽業界の歩き方

サンダンス映画祭

2010年も2月に入り、とうとうハリウッドが目覚め、一年で最も忙しいパイロットシーズンに入りました。一般的に、ハリウッドの一年の始まりは、サンダンス映画祭が終わってからと言われております。

サンダンス映画祭はユタ州のパークシティで行われる世界最大のインデペンデント映画祭で、200本以上の映画が10日間に渡って上映されます。最近はテキサスのオースティンで行われるSXSW(サウスバイサウスウェスト)の人気が上昇していますが、やはりサンダンスは重要なイベントです。

サンダンス映画祭の歴史的なことはWikipediaからどうぞ。

今年のドキュメンタリー部門グランプリは「Restrepo」。アフガニスタンのKorengal山岳に派遣された兵士のドキュメンタリーで、タイトルのRestrepoは亡くなった衛生兵の名前です。カメラが現場に密着し、インタヴューは全くありません。現場を忠実に再現して観客に問う作品です。

ドラマ部門グランプリは「Winter's Bone」。17歳の貧しい少女が自分の住む場所を守るために、覚せい剤中毒の父親を探す物語。



個人的に今年のサンダンスの注目すべき点は2つありました。

1つは「Next」と呼ばれる新しい超低予算部門。日本映画の予算とは異なり、アメリカのインデペンデント映画の予算は数百万ドルというのが一般的です。よって、予算を集めるために、プロデューサーやエグゼキュテブプロデューサーの大きな力が必要になります。その結果、商業的な成功確立を上げるために、監督の想像性や自由性(クールな言い方をすればイデオシンクラシー)が制限されたり、プロジェクトの進行が遅れてしまうことが多くなります。Nextは監督が本当に創りたい作品、表現したいテーマを自由に促進させるために、今年から始まったプロジェクトです。このコンセプトが生まれた背景には、2008年から始まった「Focus on Film」プロジェクトがあります。ここ数十年、サンダンス映画祭に過剰に根付いていた「ハリウッドの豪華爛漫な業界文化」を和らげ、本当の意味で映画を芸術作品として集中して考えましょう!というプロジェクトです。その一貫として、Nextが生まれたのではないかな~と思っております。

あと1つ注目していた点は、Google/YouTubeの参入です。数本ではありましたが、現地以外でも有力で作品を鑑賞することができました。これは配給側にとっては脅威でもあり、インデペンデント映画がYouTubeでデジタル配給されると、配給側は映画館で独占的に上映する価値を失うため、映画買い付け意欲が一気に下がってしまいます。逆にNextのような超低予算のアートフィルムであれば、これによってクリエイターの認知度を手段にもなります。正に両刃の剣。この一件は、今後一年iphoneやipadを利用したのデジタル配給の動きや戦略により、今後の配給やテレビは大きく変わるかもしれないと考えさせられました。

サンダンス映画祭は過去に数々の名作を生み出してきました。去年のグランプリに輝いたプレシャスは、その後Lionsgateに配給され米国内興行収入は5,000万ドルを達成しました。

ちなみに、プレシャスの作曲家Mario Grigorovは私たちのクライアントの一人で、独特のヨーロッパのスタイルを持つ貴重な存在です。彼が過去に作曲した映画「Shadow Boxer」のテーマソングは、彼の持つ非常に豊かで特徴的な才能が香ります。Marioは他にも数々のテレビコマーシャルの作曲しており、自動車CMだとトヨタ、レクサス、アキュラ、ホンダからアストロマーティンやベントレーまで手がけています。彼は今僕が個人的に最も注目している作曲家で、いずれAlexandre Desplatと同じ舞台で活躍すると心から信じております。