介護施設で暮らす母に会いに行く。
部屋のドアを開けるとき「今日は目を覚ましてくれるかな?」と毎回思う。
ベッドサイドに腰掛け、母の手を握ると目を開き私の顔をじっと見つめて頷く。
「ああ、よかった」
今日も私のことをわかってくれていると確認する。
つい最近までは、日本の春の歌をYouTubeで流して一緒に聴いていた。
「さあ、今日は何にしようか?」と母に聞いてみる。
答えは返ってこない。
「あっ、お母さんの好きなダンス曲にしよう!」
母はソシアルダンスを踊るのが大好きで、80歳すぎまでダンス教室に通っていた。
さっそく、ダンス選手権の映像を音楽と共に流してみる。
最初はワルツ、つぎにチャチャチャ。
母は食い入るように画面を見つめる。
スマホを支える私の腕が疲れてプルプル震えはじめる。
耐えきれなくなってスマホを下に置くと「まだ、みるよ」と母の目が訴える。
いまでもダンスが大好きなんだね、お母さん。
母の部屋からの景色。
四季折々の美しい変化が楽しめて、部屋を訪れる私を慰めてくれる。