夫の調子が悪くなっていた昨年末頃、面会で唯一聞けるのは
絞り出すように口にする「無理しなくていいよ。」
という言葉だけでした。
その後年が明けコロナに罹ってから一か月。
酸素吸入をし苦しそうな夫が言葉を発することはなく、
そして痰吸引のために気管切開。
ひとまず急性期を脱した後も、
と思っていました。
でも違っていました!
先日長女と二人で面会に行った時、看護師さんから
「クラッシックがお好きなんですね。
「ありがとうございます。明日持ってきてかけますね!」
その横で夫は、喉のあたりで絡んだ痰かゼロゼロ大きな音を立て、
看護師さんが吸引してくださり、少し痰の気配が減ったころ、
何か話そうとしてる?!
“もう…、もう…” と繰り返しているようでした。
「どうしたの? 何か言いたい? 痰を吸引しないといけなくて気管切開したから声出ないんだよ。 何?」
オロオロと声をかけながら、読唇できないか、
横に立っている長女を振り返り「わかる?」と尋ねると、
私も同じような思いが沸き上がっていたのですが、
「もうやめてくれ、もうこれ以上何もしないでくれ。」
でもその時、うっすらと “モーツアルト” と聞き取れたのです!
「モーツアルト?!」と聞くと頷きました。
気管から痰を吸引したばかりで辛そうなのに、
更にかなりの試行錯誤を続けた結果
「ブラームス」
「リヒャルト・シュトラウス」
「ばらの騎士」
という言葉を、
夫が一番好きなオペラはシュトラウスのばらの騎士なのに、
気持が焦っていたせいかすぐに思い浮かばず、
「バッハ? マーラー?」などと返し続けたあたりでは、
かぶりを振って苛立ちと怒りの表情を浮かべていました。
「ばらの騎士?!」と尋ねると、しっかり頷いて、もう喋ろうとはしませんでした。
ああ、こんなことになっても、まだここにちゃんと夫がいる!
胸が熱くなりました。
同時に、
娘たちからは、
「ずっとクリアなわけではないと思うよ。
と冷静な見立てが。
意思疎通できるのは嬉しいけれど、
意識レベルが上がることで苦しさを強く感じてしまうのは辛い。
複雑な気持ちです。
ともあれ、早速お気に入りのCDを探し、
看護師さんたちも、様子を見て音楽を流してくださっています。
少しでも夫の癒しになるといいなあ。