ヒアセイ/デビッド・サンボーン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

デビッド・サンボーン(as)の訃報が飛び込んできました。

12日に78歳で亡くなったそうです。

ここ数年、前立腺がんと闘病していたとのこと。

心よりご冥福をお祈りいたします。

 

私のように50代半ばの人であれば分かってくださると思うのですが、

80~90年代にかけて彼の癖のある音は「青春の響き」でした。

 

サンボーンは1945年、アメリカ・フロリダ州タンパの生まれ。

子どもの頃にポリオにかかってしまい、

リハビリのためにサックスを始めたというのは有名な話です。

 

そんな背景から生まれた音はざらついた感触があり、

当時流行っていたフュージョンの電子楽器と組み合わさることで

非常に斬新に聴こえたのを覚えています。

サンボーンの綺麗とは言い難い、どこかひび割れたような音が

電子楽器の中で異彩を放っていたのでしょう。

 

今回はサンボーンの諸作品の中で

私が長年に渡り聴き続けてきた「ヒアセイ」を取り上げたいと思います。

有名な「ハイダウェイ」でもなく、

ボブ・ジェームスと共演した「ダブル・ヴィジョン」でもないのは

単純にゴキゲンなアルバムだからです。

マーカス・ミラー(本作のプロデューサーでもある)をはじめとする

強力なリズム隊がノリノリで、

サンボーンのサックスがライブのように響き渡っています。

 

録音年はライナーノートにありませんが、1994年のようです。

ミュージシャンは非常に多く参加しているので、バンドメンバーのみ記します。

 

David Sanborn(as)

Marcus Miller(b,bass clarinet,guitar,keybords)

Steve Jordan(ds)

Ricky Peterson(org,p)

William Patterson(g)

Don Alias(per,vo)

 

①Savanna

冒頭のパーカッションと薄いキーボードが重なるサウンドが何ともシンプル。

ライブっぽい雰囲気の中でサンボーンがアルトで斬り込んでくると

音楽に一気に躍動感が漲ります。

この生命力と「泣き」も感じられる人間臭いサウンドがサンボーンの魅力。

テーマが終わって一気にサックスのソロになだれ込むのかと思いきや、

パーカッションとキーボードでしばし緊張感を解き、

そこからサックスが再登場するアレンジが素晴らしい。

サンボーンのソロは実はむやみに吹いているのではなく、

ちゃんと全体のサウンドの中で強弱をつけているのですが、

音の存在感がすごく、グイグイ引っ張られるような印象を受けます。

特に3分45秒あたりからの集中力に満ちたソロが素晴らしく、

ハリのある音が渦を巻くように迫ってきます。

その後のギターソロがほとんど耳に入ってこないぐらいです(笑)。

いま聴きなおしてみるとバックのホーン・アレンジもいいなあ。

 

②The Long Goodbye

サンボーンは「バラッドに強い」アーティストでもあります。

この曲ではテーマで長いフレーズが多く、彼の抒情性を堪能できます。

感心するのはマーカス・ミラーのアレンジで

非常にシンプルに、しかし節目ではホーンで厚みを加えたバックで

サンボーンを盛り立てます。

サンボーンのソロで最初はリズムとキーボードがバックをつけていますが、

3分過ぎのホーンの参加と共にアルト・サックスがパワフルに歌い上げる局面が

最も劇的だと言えるでしょう。

 

この他、ラテン・リズムが非常にカッコいい ⑥Mirage など聴きどころが多いです。

やはりリズムがタイトだと、30年前のサウンドも新鮮に聴こえますね。

 

うーん、やはり同時代を生きたミュージシャンが世を去るのは寂しいですね。

このところ忙しくブログを更新できていなかったのですが、

きょうは書かずにはいられませんでした。

ミュージシャンのみなさん、できるだけ長生きしてくださいね。