イン・ザ・モーメント/ジョン・スワナ | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

16日(金)の東京株式市場で日経平均株価が値上がりし、

3万8487円24銭で取引を終えました。

取引時間中には前日比700円を超える値上がりがあり、

1989年につけた終値での史上最高値まであと50円に迫る場面があったそうです。

 

バブル期以来の株高。理由はいろいろ言われています。

「アメリカの株高」「国内の半導体関連銘柄への期待感」

「中国に向かっていた資金が不動産バブルの崩壊で日本に来た」

などなどです。

 

ただ、いずれにしても「投機マネー」が起こしている現象であり、

実体経済が特に変わったとは思えないというのが普通の国民感覚でしょう。

物価の値上がりに対して賃金の伸びが追い付かず、

「実質的な収入減」が発生しているということが指摘されています。

また、円安が進んで通貨の価値が目減りし、

15日には日本の去年1年間の名目GDP(国内総生産)が

ドイツに抜かれて世界4位になったことが報じられました。

国際的な競争力が落ちているということにもすっかり驚かなくなりました。

 

やはり大切なのは「実質的な幸福度」が上がる社会を実現することなのではないか。

教育にお金がかからなかったり、

エッセンシャルワーカーの仕事が評価されて適切な報酬が得られるようにしたり、

挑戦に失敗した人がまた立ち直って次の機会を得られるようにしたり・・・

社会が収縮していく流れの中で、「これだけは譲ってはいけない」価値を明確にし、

前を向いていけるようにすることが求められていると思います。

 

そんなことを考えて、1枚のアルバムを取り出しました。

トランぺッター、ジョン・スワナの「イン・ザ・モーメント」です。

 

ジョン・スワナは「知る人ぞ知る」存在です。

1962年生まれで、アメリカのフィラデルフィアを拠点に活動してきました。

正統的なハード・バッパーとしてトランペット、フリューゲルホーンで快音を響かせ、

クリス・クロス・レーベルから発表した数々の作品で次第に注目を集めていきます。

しかし、ある腫瘍ができたことをきっかけにこれらの楽器をやめ、

いまはバルブ・トロンボーンなどを吹いて音楽活動を続けているそうです

(英語版wikipediaによる)。

 

彼の素晴らしいトランペットを聴けなくなったのは残念ですが、

音楽家としてキャリアを続けているのは嬉しいことです。

本人の努力はもちろんですが、周囲の支えや「再挑戦」を良しとする気風が

彼を支えたのではないかと推測します。

 

このアルバムに収録されている「I Wanna Be Happy」は

非常にストレートなトランペットが胸を打ちます。

脇を固めるエリック・アレキサンダー(ts)やケニー・バロン(p)、

それにケニー・ワシントン(ds)の存在感も強い印象を残します。

 

1995年12月14日の録音。

 

John Swana(tp,fluegelhorn)

Eric Alexander(ts)

Steve Davis(tb)

Kenny Barron(p)

Peter Washington(b)

Kenny Washington(ds)

 

②Le Barron

スワナがケニー・バロンのレコーディング参加を知って

書いたというオリジナル。

ピアノによる急速調のイントロを受け、

スワナがテーマを吹きます。

非常にシンプルなホーン陣のバックを受けて

トランペットの印象が立ってくるアレンジは

アートブレイキーとジャズメッセンジャーズの3管時代を思わせます。

まずはスワナのソロ。アップ・テンポに乗って吹きまくる!

感心するのはスピードに乗って長く、細かなパッセージが続いても

全くブレることなく、ひたすら前に進んでいく姿勢です。

この時代にあってアドリブ一発に賭けているプレイが逆に新鮮。

続いてエリック・アレキサンダーのテナーが登場です。

急速調は彼が得意とするところであり、

ちょっと粘っこさを出した音色で一定の重量感を出しながら

一気に駆け抜けていくのがカッコいい。

そしてケニー・バロンのソロ。

威風堂々としながらスピードに乗るピアノに

ホーン陣が重なってスリル感を出しています。

短いケニー・ワシントンのソロを経てホーン陣によるテーマが現れるのですが、

実はその後でケニー・バロンが非常に力強く不穏なソロを響かせ、

それを猛烈に煽るドラムとの攻防が記録されています。

おー!これは!と思ったところでフェードアウト。

尺がなかったのかもしれませんが、これは非常に残念でした。

完全版を聴きたい・・・。

 

⑥I Wanna Be Happy

ヴィンセント・ユーマンスによるスタンダード。

ここでスワナはミュートを使ってユーモラスなプレイをしています。

冒頭からスワナがストレートにテーマを吹き、バックはベースとドラムのみ。

特にケニー・ワシントンがすばしこいブラッシュ・ワークで

さり気なく盛り立てます。

スワナがそのままソロに入ると、多弁でありながら

時に絶妙な空間を挟んでスイング感を出していきます。

ソロが進むにつれ、ベースが次第に激しくビートを刻み

ブラシのスピードも上がっていきます。

そこに仕掛けるようにフレーズをリフレインするスワナ。

3者の対話が迫ってきて息を呑みます。

ブレイクを挟んで、ピアノがバックに参加し

エリック・アレキサンダーのソロへ。

「待たせたな!」と言わんばかりにバリバリと吹きまくり

ここではドラムもスティックに持ち替えて盛り上げます。

後半のうねるようなフレーズとドラムの煽りはなかなかのものです。

そしてケニー・バロンのソロ。ここは彼らしい上品さと

適度なスピード感が一緒になった演奏で、

テーマを引用するといった遊びはさすがベテランといったところです。

トランペット(ミュートではなくなっている)とテナーの小節交換を経て

ケニー・ワシントンのブラシを多用した達者なソロにつながるところは

ハードバップの王道を行くような演奏と言っていいでしょう。

 

⑧Ballad of The Sad Young Menでのスワナの抒情的なプレイもなかなかです。

 

週明けにも株価は最高値を更新するのではないかという見方があります。

こんな数字に一喜一憂するのではなく、

「どうしたらハッピーになれるか」考えていきたいものです。

 

幸福の捉え方は個人によって異なるのですが、

だからと言って「個人に丸投げ」するのではなく

縮小時代に見合った社会的な議論があっていいはず。

ちょうど国会の時期ですが、裏金の問題に終始しそうなのは悲しいことです。