ブルックリン・ブラザーズ/セシル・ペイン&デューク・ジョーダン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

ロシアのプーチン大統領が日本時間のきのう(9月30日)夜、

ウクライナの東部や南部の4つの州について「ロシアが併合する」と一方的に宣言しました。


このところ、ロシアはウクライナ軍の反転攻勢を受けて、

非常に「焦っている」印象を受けます。

9月21日には戦地に派遣される兵士について、

職業軍人だけでなく、有事に召集される「予備役」を部分的に動員することにしました。

 

私が驚いたのは、その対象者の年齢です。

ロイターによるとロシアの法律では、理論的に

「18歳から60歳の男女をランクに応じて予備役として召集することができる」

というのです。

 

情報BOX:プーチン大統領の部分動員令、その詳細と影響 | Reuters

 

実際には60歳以上の人も召集されたという情報もあり、

9月28日にはロシア市長が動員を進める過程で誤りがあったことを認めて、

一部の人に対する召集を撤回しました。

 

一方のウクライナ側も戒厳令で18歳から60歳の男性の出国を禁じています。

戦争とはそういうものかと思いつつ、

還暦に近くなっても戦争に行く可能性があるというのは悲しい時代だと思います。

 

私はいま50代前半。

体力的な衰えを感じてくることが多くなりましたが、

いざとなると声がかかるのか・・・・。

そうした立場になると、どう振舞うべきなのか結論が出ません。

 

50代前半の持つ知力・体力に思いを馳せていたら、1枚のアルバムを手に取っていました。

セシル・ペイン(bs)とデューク・ジョーダン(p)の「ブルックリン・ブラザーズ」です。

 

セシル・ペインとデューク・ジョーダンは共に1922年、NYのブルックリンに生まれました。

ビバップが形作られていった1940年代後半、

デューク・ジョーダンはチャーリー・パーカー(as)のバンド、

セシル・ペインはディジー・ガレスピーのビッグ・バンドに在籍。

1950年代初めにはコールマン・ホーキンス(ts)のバンドで2人は共演しています。

それから2人の交流は長きにわたって続き、互いのリーダー作で共演するなどしてきました。

 

「ブルックリン・ブラザーズ」はかつてシグナルというレーベルで

2人を共演させたプロデューサー、ドン・シュリッテンが再結成を企画したものです。

それだけ2人の相性がいいということなのでしょう。

録音が行われた1973年、2人は50代になったばかり。

円熟味がありながら、枯れてはいない年代ならではの音があります。

 

1973年3月16日、NYのRCAスタジオでの録音。

 

Cecil Payne(bs,fl)

Duke Jordan(p)

Sam Jones(b)

Al Foster(ds)

 

⑤Cuba

セシル・ペインのオリジナル。

ラテン的な要素が入った明るいテーマを、

バリトン・サックスという重量感がある楽器でセシルが吹きます。

セシルの音には重みがあるのですが、とても流暢といいますか、

音の運びがスムーズに感じられます。

ソロに入ってリズムがアップテンポになっても全く動じることなく

気持ちのいいフレーズがどんどん湧き出てくるので

1分45秒過ぎでメンバーの誰かが思わず歓声を上げているほどです。

続くジョーダンはブルージーで哀感のある彼らしい音で入ってきます。

リズムがラテンなので彼の音と対照を成すようになっており

最初は探りを入れている感じですが、

次第に調子を上げて「決めフレーズ」を出してくるところが聴きどころです。

その後はアル・フォスターのドラム・ソロ。

シンバルをうまく使った「歌」になっており、

彼の躍動感が演奏全体のけん引力になっていることが分かります。

 

⑥I Want To Talk About You

おなじみのスタンダードですが、50代のリーダーが見事に仕上げています。

冒頭はベースとバリトンのみ。

シンプルな編成でテーマを歌い上げるセシルが素晴らしい。

野太く・じっくりとストレートに迫るバリトンは

まさに「50代、やるな!」という感じです。

人生経験を感じさせつつも、まだまだ充実している音です。

やがてピアノ・ドラムが加わってバンド全体の音の厚みが出てくる中で

セシルは次第に「音圧」を上げていき、説得力を増していきます。

バリトンのソロの途中、リズム隊が一気に退いて、セシルのみとなります。

このアイデアが素晴らしく、セシルがバラッドで生々しく低音を響かせるのが最高!

ドン・シュリッテンはこれがやりたくてレコードを作ったのではないかと思うほどです。

 

他に、セシルのフルートが思わぬ拾い物の⑦Cerupa もいいです。

 

セシル・ペインもデューク・ジョーダンも若いときにはない味わいが出ており、

この時の表現もまた貴重だと思います。

 

50代、まだまだ働けるな・・・という印象を持ちつつ、

このパワーが戦争に使われることのない世界を望みたいものです。