ジャズに恋して/ソニー・ロリンズ | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

イギリスのエリザベス女王が8日、96歳で亡くなりました。

ご冥福をお祈りいたします。

 

私はエリザベス女王について特に詳しいわけではありませんが、

女王が示した威厳や国民への献身というものが強く印象に残ります。

そして、君主として歴代最長という「在位70年」の重さ。

父親の国王が亡くなったため、1952年に25歳で王位を継承して以降、

長きにわたってイギリス統合の象徴であり続けたのですから大変なことです。

 

ザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーがツイッターで投稿しています。

 

For my whole life Her Majesty, Queen Elizabeth Ⅱ has always been there.

 

自分の生涯において、女王は常に身近にいた、ということです。

そして次のように述べています。

 

「子供の頃、テレビで女王の結婚式のハイライトシーンを見たことを覚えています。

 女王は若く美しいレディから国民に非常に愛されるおばあさんになられた。

 王室のみなさまに深くお悔やみを申し上げます」


これは70年という年月の実感をよく伝えているコメントだと思います。

 

目まぐるしく変わる世界の中で、

長く国民を優しいまなざしで見つめ続ける人がいるという安心感。

「あの人が見ているかもしれないな」という感覚はどこか人を落ち着かせるものです。

イギリス国民が抱えている喪失感にはそんな背景があるのかもしれないと思いました。

 

ジャズで長く活躍し、いまも存命である「巨人」と言えばソニー・ロリンズ(ts)です。

現在92歳。さすがに演奏活動をしているという話は聞いていませんし、

新しいリーダー作は2010年代初頭のライブを収めたものから出ていないはずです。

 

しかし、ロリンズが生きていて

「どこかでいまの音楽シーンを見聞きしている」と想像するだけで

「変なことはできない」と思うミュージシャンはいるのではないでしょうか。

ビバップとハードバップの全盛期を経験し、

2000年代に入っても健在ぶりを見せていた巨人が「生きている喜び」はあります。

ロリンズには100まで頑張って欲しいものです。

 

今回はロリンズのキャリアとしては「後半に入る」タイミングでの作品を聴いてみましょう。

1989年録音ということで、ジャズファンの間でもあまり話題にならないアルバムですが、

当時58歳のロリンズが充実していたことを示す「ジャズに恋して」です。

 

このアルバムでは当時28歳のブランフォード・マルサリスが一部で参加しています。

ブランフォードもいい演奏をしているのですが、

音の存在感という面ではロリンズに及んでいません。

全体的には明るく、非常に気楽に聴けるアルバムですが、

改めてロリンズの偉大さを確認することができます。

 

1989年6月3日、8月5日、9月9日の録音。曲によりメンバー構成が変わります。

 

Sonny Rollins(ts)

Branford Marsalis(ts)

Tommy Flanagan(p)

Mark Soskin(p)

Jerome Harris(g,b)

Bob Cranshaw(b)

Jeff Watts(ds)

Jack DeJohnette(ds)

Clifton Anderson(tb)

 

①For All We Know

こちらはロリンズ、ブランフォード、フラナガン、ハリス、ワッツの

5人によるクインテットでの演奏。

非常にゆったりとしたテンポで、プレイ自体が楽しいという雰囲気が伝わってきます。

テーマはロリンズとブランフォードの掛け合い。

ロリンズの方がやや粘りのある音色で区別がつきます。

ソロに入っても2人の掛け合いが続く異色の展開。

互いのフレーズを意識しながら当意即妙に反応しているのが分かり

何とも微笑ましい感じがします。

面白いのはロリンズの方が「逸脱」が激しいことです。

フレーズの伸ばし方、広げ方、ユーモア、全てに渡って意外性があり

挑戦を続けるベテランらしさがあります。

ブランフォードの方は明らかにロリンズの影響下に入ったプレイになっており、

敬意を表した部分もあるのでしょうが、「まだまだ及ばない」印象です。

続くフラナガンは端正なピアノで、テナーの熱さを引きずることなく

このトラックを中間部で「(いい意味で)冷ましてくれる」役割になっています。

その後、ブランフォード~ロリンズへとソロがつながれます。

ブランフォードは彼らしいスピード感とスムーズさで聴かせますが、

続くロリンズのゴリゴリした音と比べると、やはり「音の重さ」が違います。

まあ、ロリンズもブランフォードに触発されて

前のめりになったのかもしれないですけど。

 

②Tenessee Waltz

こちらはロリンズ、ソスキン、ハリス、ディジョネットによる

ギター(ハリス)入りのクインテット。

歌謡曲的なテーマをロリンズがかなりストレートに、泥臭く吹いています。

この時のロリンズは何か吹っ切れていたんでしょうか。

真っすぐなアプローチを恥ずかしがることなく、ひたすら進んでいくイメージです。

ソロはテーマよりやや過激で、短いフレーズを次から次へと発し、

連続したつぶやきを聴いているかのようです。

でも、それが不思議と「味わい」になっています。

続いてハリスのブルースの影響が色濃い硬質なギター・ソロが

大きくフューチャーされています。

ロリンズが彼のことを買っていたからかもしれません。

これを受けてロリンズとディジョネットのスローテンポでの掛け合いという

意外な展開があり、これも「いい味」を生んでいます。

 

それにしてもエリザベス女王はじめ、第2次世界大戦を経験し

平和の尊さを訴える人たちが少なくなってきたのは寂しいことです。

あのプーチン大統領ですら哀悼の意を表する存在を失ったことの大きさを

これから世界は実感するのかもしれません。