ヌー・ハイ/ケニー・ホイーラー | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

自民党の総裁選挙が9月29日(水)に行われ、岸田新総裁が誕生しました。

4人の候補が立ったことで総裁選が連日ニュースとなり、

さらに10月1日(金)からは緊急事態宣言が解除ということで

自民党に一気に追い風か・・・と思いましたが、そうでもなさそうです。

 

ここまでわかってきた党の役員人事や

週明け4日(月)の組閣に向けた検討がかなりひどい、からです。

自民党の人事では幹事長に甘利氏、組織運動本部長に小渕氏が就きました。

この2人、かつて金銭をめぐる疑惑でいずれも閣僚を辞任した経緯があります。

 

それでも起用が決まったのは甘利氏が安倍・麻生という有力者に近く、

小渕氏は多くが岸田氏の支持に回った竹下派の所属だからでしょう。

現在、竹下派の会長代行を務める茂木外務大臣の再任も固まったようで、

「論功行賞」人事の色が濃いと思います。

 

わざわざ過去に疑惑のある人を持ってきたり、

新鮮さに欠ける人材を重用するところから、

岸田新総裁(⇒新首相)への期待というのはかなりしぼむでしょう。

11月に行われる衆院選まで時間が少ないので

「ぼろが出ない」うちに選挙で勝ってしまおうという意図が見え隠れしますが、

それほど簡単ではないように思えます。

やはり安倍政権下で続いた「異論を封じる」政治というのは

「変われない自民党」を作ってしまったのですね。

 

大胆な人事が欲しいなあ・・・と思ったところで、あのアルバムを聴きたくなりました。

ケニー・ホイーラー(tp、flh)の「ヌー・ハイ」です。

 

ケニー・ホイーラー(1930-2014)はカナダ・トロント生まれのトランぺッター。

プロとしての活躍の場は主にロンドンで、オーケストラでの活動を経て

1960年代から70年代にかけてはフリー・ジャズにも身を投じています。

その後、1970年代からジョン・テイラー(p)、ノーマ・ウィンストン(vo)と「アジマス」を結成、

クールなアンサンブルを展開しました。

また、オーケストラを結成してアレンジでも才能を発揮しています。

 

1975年6月に制作され、ECMでのデビュー作となった「ヌー・ハイ」の何が大胆かというと、

キース・ジャレットというピアニストがサイドマンであることです。

キースは既にマイルス・デイヴィス・グループ在籍を経て、

完全即興によるピアノ・ソロに注力していた時期でした。

ブレーメン・ローザンヌで行われたライブを収録した「ソロ・コンサート」(1973年録音)という名作を発表、

「ヌー・ハイ」制作の5か月前には名高い「ケルン・コンサート」が行われています。

 

名声を得ていたキースと知名度はそれほどでなかったホイーラーを組み合わせることは、

ホイーラーとECMのプロデューサー、マンフレート・アイヒャーの話し合いで決まったそうです。

キースが絶大な信頼を寄せるアイヒャーが依頼したからこそ実現した企画でした。

 

実はキースにとってこの企画は難しいものでした。

キースの評伝『キース・ジャレット 人と音楽』(イアン・カー著、蓑田洋子訳、音楽之友社)によると

セッションの何時間か前に初めて楽譜を見て、リハーサルもないという状況に面食らったようです。

 

ホイーラーの音楽には連続するコード・チェンジがあって即興部分にもそれが反映されるのですが、

当時のキースはそうした音楽には興味が持てなかったというのです。

セッションの途中、アイヒャーが調整室でキースに意見を求めたところ、

次のような答えでした。

 

「わからない・・・・この手の音楽は得意じゃないからね」

 

しかし、音楽を聴くとそんなことがあったとは全く感じられません。

ホイーラーとキースの音はそれぞれ非常に繊細でありながら見事に調和し、

むしろ理想のグループのように思えてくるのです。

「大胆な人事」が大きな成功を収めた好例です。

 

1975年6月、NYのジェネレーション・サウンド・スタジオでの録音。

曲は全てホイーラーのオリジナルです。

 

Kenny Wheeler(fih)

Keith Jarrett(p)

Dave Holland(b)

Jack DeJohnette(ds)

 

①Heyoke

21分49秒(!)という長尺の演奏。しかし、長さは感じません。

ホイーラーの柔らかく、伸びのあるフリューゲルホーンによって

広大な大地に乗り出したかのような印象を持たせる旋律が提示されます。

そのままホイーラーのソロへ。

彼の演奏は非常に音域が広く、高音域から低音域までがフルに使われますが

高音のヒットも抒情性がありスッと入ってきます。

スピード感と流れるようなスムーズさは彼ならではの個性でしょう。

続いてキースのソロへ。

彼の「翳り」が見え隠れしつつ、激しい面も出してくる圧倒的なピアノで

とても「得意ではない」とは思えません。

ディジョネットの支えもあってキースが「熱い」面を出した力強い演奏です。

その後、ホランドのベース・ソロを経て

再びメロディがホイーラーにより提示されるのですが、圧巻はここから。

キース以外のメンバーが退き、完全なソロ・ピアノ・パートに入るのです。

美しくも内向的な世界は息を飲ませるような迫力があります。

いったん世界が完結したかのようにソロが止まった後、

他のメンバーが再び参加してホイーラーがソロを取ります。

ここはフリーを経験した彼らしく、崩れそうな繊細なリズムを縫うように

ホイーラーがうねりのあるソロで走りぬきます。

この後を受けてキースも抽象的な要素のあるソロを取ります。

ドラムとベースが挑戦的なリズムを繰り出す中、

キースが思いきり弾ける18分ごろが聴きもの。

凄みのある演奏と言っていいでしょう。

終わり方は普通にメロディに戻るのではない意外な展開で、

ホイーラーは「組曲」的なイメージを持っていたのでしょうか。

 

このほか、ストレートな4ビートを受けたホイーラーとキースが面白い

②Smatter も聴きものです。

 

やはり、新しいことをやるには「冒険」がないと・・・。

岸田さんに「新しいこと」をやる気があるのかも不明ですが、

そろそろ自民党が負けてくれないと本当の変革はないのでしょう。

野党の存在感もいまひとつですが、

11月の衆院選はよく考えて投票しなくては。