今週は「敬老の日」と「秋分の日」という2つの祝日があることで
ちょっと一息つくことができます。
ということで、「読書の秋」を楽しむことにしました。
読んだのは私の弟が貸してくれた一冊。
『アナログの逆襲 「ポストデジタル経済」へ、ビジネスや発想はこう変わる』
(デビッド・サックス著、加藤万里子訳、インターシフト社)
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著者はビジネスやカルチャー分野を得意とするトロント在住のジャーナリスト。
この本はニューヨークタイムズ紙の「TOP10ブックス 2016」に選ばれているそうです。
タイトルの通り、「アナログの逆襲」がこれでもかとばかりに描かれています。
手帳、フィルム、ボードゲーム、腕時計・・・・。
著者は「デジタル否定派」ではありません。
しかし、衰退すると思われていたアナログの需要が再び高まり、
消費者の「根本的な欲求」を引き出して成功していると論じています。
私がなるほど!と思ったのは書店の復活を論じている
第6章「リアル店舗の逆襲」です。
アマゾンの出現によって滅びゆくかと思われた書籍の小売業が
ピーク時には及ばないものの勢いを増しているというのです。
米国小売書店協会(ABA)によると1990年代に4000軒だった加盟店が
2009年は1650軒まで落ち込んだものの、
2014年には2227軒にまで回復し、その勢いが鈍る気配はないとのこと。
その理由として著者が挙げているのが「リアルな体験」です。
客の相談に応じて書店員が選書してくれたり、
店を回遊する中で未知の面白そうな本との出会いがあったりすること。
これは購入履歴からAIが出してくるアマゾンの「おすすめ」にはない機能で、
著者は「豊かなブラウジング体験」だとしています。
こうした「体験」への視点はあのスティーブ・ジョブズも持っていたようです。
ジョブズは2001年にアップル・ストアをオープンしましたが、
当時、既にネット販売は行っていました。
なぜ実店舗を開いたのか、アップル・ストアの立ち上げに携わった
元小売り担当部長の証言です。
「スティーブは、アップルはイノベーションで勝つと信じていた。
顧客に届ける必要があるイノベーションは、マーケティングでは届けられない。
販売する場所を確保しなければ、製品の革新性を認めてもらうことはできないんだ。
店舗を出すことは自明の理だったんだよ」
実際、アップルストアでの価格は安くないのですが、
客は最新の製品と、ソフトについて教えてくれる店員との「体験」を求めてやってくる。
いいものを作っているだけは人は寄ってこない。
人間を知り尽くしていたジョブズの凄さを改めて感じます。
「手応え」のある体験・・・
当然のことながらジャズファンが思い当たるのは「レコード」です。
今回の本でも第1章が「レコードの逆襲」となっており、
レコードを製造する工場がどんどん増えていることが生き生きと描写されています。
そういえばタワーレコード渋谷店にもアナログ専門のフロアが今日からオープンするとか。
レコードの質感、「きっちりしていない」生々しい音、
このアナログ感を求めるファンは若い層にも広がり絶えることはなさそうです。
今回は私が最近、リアル店舗で入手した1枚を聴いてみましょう。
デクスター・ゴードン(ts)の「ホームカミング」です。
買ってしまったのはやはり「手応え」ですね。
2枚組で、見開きのジャケットは迫力があります。
↓
ずっしりとした重みを感じつつ、ターンテーブルにレコードをのせるのは
休日の最高の贅沢です。
近所に迷惑をかけないように音量は絞りますが、
戸建てに住んでいたら大音量でしょうね(笑)。
この作品はデクスターが1962年からアメリカを離れ、
長い欧州滞在を経た後、1976年にアメリカに帰国した際のライブをとらえたものです。
15年近くに及ぶ長い外国滞在の間、時折アメリカに顔を出していたとはいえ、
本格的なカムバックはジャズファンを沸かせました。
面白いのは、デクスターが伝統的なスタイルを持ちつつも
ちゃんと新しい流れにも「乗っている」ところです。
「新主流派」などと言われたトランぺッター、ウディ・ショウを迎え
モーダルな曲にも果敢に挑戦しています。
それが単なる「ものまね」ではなく、彼らしいエモーションを感じさせるところが
一流の証となっています。
1976年NY、ビレッジ・バンガードでのライブ録音。
Dexter Gordon(ts)
Woody Shaw(tp)
Ronnie Mathews(p)
Stanford James(b)
Louis Hayes(ds)
Record-1SideA
①Gingerbred Boy
テナーサックス奏者、ジミー・ヒースの曲。
2枚組の冒頭を飾るにふさわしい、実に堂々としたデクスターを聴くことができます。
メロディの後、すぐデクスターのソロに入ります。
豪快ということばが似合うのでしょうか、汲めども尽きぬという感じで
太い音がどんどん出てきます。
ルイ・ヘイズのドラムが主張しすぎない程度に煽る中、
高音域から低音域までをフルに使って風格のある演奏が続く様は圧巻です。
続くはルイ・ヘイズとウディ・ショウの小節交換。
これが長いライブ演奏(全体で13分!)の中では良いアクセントとなっていて、
ショウの鋭いトランペットを受けて柔軟にソロの内容を変える
ヘイズの名人芸に唸らされます。
この小節交換の後、ショウが単独でソロをとりますが、非常に熱い!
グループ全体が刺激し合って演奏を盛り上げていく様子はLPの「親密な音」と共に
ライブ会場に足を運んでいるかのような感覚をもたらしてくれます。
Record-2SideA
②Let's Get Down
ピアノのロニー・マシューズが書いたオリジナル。
ハッピーなバップ・チューンという趣です。
短いテーマの後にまずデクスターがソロを取ります。
非常に気楽な時のデクスターの良さが出ていると言いますか、
音に緊張がなく、楽しい語りを聴いているかのような感覚を覚えます。
そんな中でヘイズが巧みにポイントを作ってシンバルを打ち込んできて、
そこからデクスターにもパワーが漲ってくるところが面白い。
続いてショウのソロへ。最初は軽やかに安定した演奏で入ってきます。
やがて自分から鼓舞するように切れ味のある連続フレーズを吹き、
バンド全体を引っ張っていきます。
歌心のある演奏は彼の実力を良く示していると言えます。
続いて作曲者のマシューズが登場。
彼らしいモーダルな演奏ですが、他のメンバーに触発されたのか
いつもよりメロディックな展開になっているところが興味深い。
そしてベースのスタッフォード・ジェームスのソロ。
堅実でいい演奏なのですが、70年台らしい電気的な響きのある
録音になっているところがちょっと残念。
最後はヘイズがホーン陣と小節交換をして軽いタッチの曲を
ぴしっと締めてくれます。
今回ご紹介した本は2016年にアメリカで出版されたということで
コロナの時代を反映してはいません。
しかし、めまぐるしく変転し、更新されるデジタルに対して
時間の蓄積が伴う「アナログ的な実体」が見直されているのは
むしろいまなのではないかと思います。
なにしろ、「実体」に触れる機会が著しく制限されたのですから。
コロナを経て、私たちが本当に何を欲しているのか。
そんなことを考えさせられた「読書の秋」でした。


