ジョアン・チャモロ・プレゼンツ・ジョアナ・カサノヴァ | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

アフガニスタン情勢で緊張が続いています。

 

アフガニスタンに残る日本人などの国外退避が行われていて、

27日の夜に自衛隊が輸送機でパキスタンに日本人1人を退避させました。

これに加え、前日にはアフガニスタン人の十数人をパキスタンに輸送していたことが

NHKの報道で伝えられています。

 

ただ、朝日新聞によると日本政府が移送の対象としているのは500人規模だということです。

国際機関で働く日本人、大使館や国際協力機構(JICA)の現地スタッフらと

その家族が想定されていますが、空港までの移動が困難になっているとありました。

タリバンによる検問や、26日に空港近くで自爆テロが発生した影響があったということです。

 

タリバンが首都カブールに進攻し、今月16日に「勝利宣言」をしてから

情勢がめまぐるしく動いています。

ここまで激しく国外退避が行われているのは、言うまでもなく

タリバンの政策がイスラム教を極端に厳しく解釈したもので

人権を抑圧する可能性があるからです。

1990年代後半に政権を樹立していた時には女性の就労や教育を制限して、

国際的な非難を浴びてきました。

 

今回、空港に集まる人々の姿を見ていると、人権があるという「当たり前」のことが

実は全く自明ではなく、長い歴史の中で勝ち取られたものであると痛感します。

そして、再びブルカを着用し始めている女性の映像に接し、

差別というものは支配のあり方で簡単に生まれてしまうということも実感しました。

 

平等にチャンスが与えられるありがたさを感じたところで、

女性がリーダーとなっている作品をご紹介したいと思います。

「ジョアン・チャモロ・プレゼンツ・ジョアナ・カサノヴァ」です。

 

この作品が生まれるのにあたってはスペインのマルチ・アーティスト

ジョアン・チャモロ(1962ー)の存在が大きいです。

彼はジャケット写真でベースを持っていますが、

サックス、フルート、コルネット、クラリネットもこなすマルチ・プレイヤーなのです。

 

バルセロナで音楽を学んだチャモロはスライド・ハンプトン(tb)やテテ・モントリュー(p)らとの

共演を経て、ビッグ・バンドのメンバーとして活動してきました。

2006年にサン・アンドレウ・ジャズ・バンドを結成し、若いミュージシャンを

このバンドで教育していくようになります。

教え子を「プレゼンツ」シリーズで次々に紹介していくのですが、

その中に女性が多いことも特徴の一つです。

 

日本でも女性のジャズミュージシャンの活躍が著しくなっています。

秋吉敏子(p)さんなど長く活動している人も稀にいますが、

基本的に「男の世界」だったところにチャンスが広がってきているのは世界共通のようです。

 

今回、チャモロによって紹介されるジョアナ・カサノヴァは

サックスとヴォーカルをこなすという「二刀流」。

ライナーノートでチャモロのクラスやリハーサルへの謝辞が述べられているところを見ると

バンドで貴重な経験をしたのでしょう。

選曲などで自由を与えてくれたチャモロに重ねて感謝しているところからも

両者の信頼関係が窺えます。

 

2019年5月4日、9月7日、12月15日、16日、18日、

バルセロナで行われたライブを収録。

 

メンバーは各ライブで顔ぶれが違い、全員を書くことができませんが

スコット・ハミルトン(ts)といったベテランも参加しています。

 

Joan Chamorro (b)
Joana Casanova (ts,vo)
Joe Magnareli (tp)
Scott Hamilton (ts)
Dick Oatts (as)
Joan Monne (p)
Alba Armengou (tp)
Joan Marti (ts)
Josep Traver (g)
David Xirgu (ds)
Sant Andreu Jazz Band

 

①Blowin' In The Wind

何と、ボブ・ディランの有名曲が冒頭で登場です。

意外な選曲ですがこれが素晴らしい。

静かなギターのイントロに導かれてジョアナがストレートに

お馴染みの曲を歌っていきます。

この「捻っていない」ところが「ジャズだから」といったような

妙な気負いとは無縁で、曲の世界に集中することができます。

ジョアナの歌声はややノラ・ジョーンズに通じるところがあるでしょうか。

軽快ですが艶があり、聴きやすくはあるのですが芯も感じさせます。

やがてリズム隊が加わり、しっかりとしたビートが加わることで

躍動感が増していきます。

Joe Magnareli のフリューゲル・ホーン・ソロで

「そういえばジャズバンドの演奏だったな」と思うのですが、

これすらも曲調に溶け込んでおり、ジャンルを超えている感があります。

後半、ジョアナの歌声をリズム隊が控えめに、しかしさりげなくパワーアップして

盛り立てているところも好ましいです。

 

⑧Alagos

ブラジルの歌手・ジャバンの曲。

こちらはラテン・ムードたっぷりでジョアナのノリのいい歌唱を楽しむことができます。

フルート、クラリネット、バイオリンも入った9人編成のバンドなので

スケール感がありますが、サウンドは非常に軽快。

ジョアナは難しいと思われる節回しを軽々とこなし、①のクールさとは打って変わって

非常にハッピーな雰囲気を醸し出しています。

途中のJoan Martiによるフルート、Joe Magnareli のトランペット・ソロも

流れるが如しでなかなかです。

 

⑬My Romance

リチャード・ロジャースによるお馴染みのスタンダード。

ここではジョアナがテナー・サックスを吹いています。

これが非常に「正統派」というのでしょうか、

しっとり・じっくりメロディを歌い上げています。

音だけ聴いていたら女性とは思えませんし、

50年代のプレイヤーだと言われても信じてしまうでしょう。

チャモロはベン・ウェブスター(ts)やジーン・アモンズのような

ラインを感じるとライナーノートで述べています。

尖った個性ではありませんが、音楽への愛情が感じられる図太いプレイで

何ともうれしくなります。

 

このほか⑫Birdsongはジョアナのオリジナル。

こちらは良質なフォーク・ソングの味わいがあります。

ジョアナの現代性と伝統に根差した演奏が併存しているところに

これからの可能性を感じます。

 このような才能が出てくると、教育の重要性を感じぜずにはいられません。


今後、アフガニスタンという国がどうなるのか。

20年間、曲がりなりにも機会を与えられてきた女性たちが

これからのタリバン統治下を絶望のもとで過ごさないようにするには

国際社会が監視するしかないのでしょうが・・・。

アメリカが力を失ったことをこうした悲劇的な形で目撃することになるとは、

何とも複雑な思いです。