モンクス・ミュージック/セロニアス・モンク | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

「民主主義の根幹を揺るがす事件」に今週、一定のメドがつきました。

 

愛知県の大村知事の解職請求(リコール)に向けた署名の大半が有効と認められなかった問題で、

アルバイトを使って署名を偽造したとして「愛知100万人リコールの会」事務局長らが

19日(水)に逮捕されたのです。

 

署名集めのきっかけは愛知県がおととし8月に開いた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」でした。

「表現の不自由」をテーマにした展示があり、政治的な議論を呼んだことは

以前、このブログでも書きました。

 

 

団体は「芸術祭の実行委員会の会長を務めた大村知事の責任を問いたい」と

署名活動を始めました。

しかし、思うように署名が集まらず、事務局長らがアルバイトなどを使って

署名を偽造した疑いが持たれているのです。

提出された署名43万5000人分のうち83%は有効と認められていません。

 

やったことは本当に悪質で言語道断です。

これまでの報道によると勝手に名前が使われたり、既に引っ越して住んでいない人の

住所が使われていたということです。

 

一方で救いだったのは、手口が稚拙で署名簿に同じ筆跡がずらっと並んでいたため、

すぐに不正が明らかになったことです。

デジタルの時代、手書きで何かを提出する機会は激減していますが、

「手で書く」という人間臭い行為が不正を防いだわけです。

 

テスト用紙、エントリーシート、手紙、役所への申請・・・・

確かに、手で名前を書いて提出することは一種の「覚悟」を伴います。

そんな人間的な行為を軽んじたところが、今回の事件のもう一つの「罪」であるような気がします。

 

そんなわけで、「手書き」のジャケット・デザインがあるアルバムを取り出してみました。

セロニアス・モンク(p)の「モンクス・ミュージック」です。

 

モンク(1917-1982)はご紹介するまでもないジャズ・ピアノの巨匠。

このアルバムでは鉛筆を手に楽譜とにらめっこするモンクと、

タイトルや一部のメンバーが手書き文字でジャケットにデザインされています。

 

録音された1957年の前後にモンクは多くの代表的な作品を残しており、

まさに脂が乗りきっていた時期。

手書きのジャケットはもちろんデザイナーによるものでしょうが、

当時のモンクの自信が表れているようにも思えます。

 

編成は4管+ピアノトリオなのですが、曲によってはワンホーンとなることもあります。

個人的にはこうした編成の柔軟さと、ホーン奏者の可能性を引き出したいう面で

モンクの傑作に挙げて良いと考えています。

 

1957年6月26日、NYでの録音。

 

Ray Copeland(tp)

Gigi Gryce(as)

Coleman Hawkins(ts)

John Coltrane(ts)

Thelonious Monk(p)

Wilbur Ware(b)

Art Blakey(ds)

 

②Well, You Needn't

モンクのオリジナル曲で、11分に及ぶ長尺のブローイング・セッションです。

モンクらしい複雑なテーマですが、それぞれのホーン奏者が刺激を受けて

生きのいい演奏をしてくれます。

やや不穏な趣のあるピアノのイントロを受けて4管でメロディが始まります。

厚みのあるホーンアレンジがなかなか良い。

まずはモンクのソロ。不規則なフレーズが並ぶモンクらしいソロで

とても「乗りにくい」のですが、ベースとドラムがきっちりとリズムを刻んでいるので

何とかなっています。

続いてコルトレーン(ts)。後年の完成度まではいかないものの、

モンクの世界を理解しつつ彼らしい引き締まった音色でソロを展開します。

聴きものはモンクが変則的なバッキングをつける3分20秒過ぎあたり。

全くペースを乱されることなくソロを取り続けるコルトレーンの姿から

自信のほどが分かります。

次にレイ・コープランドのトランペット・ソロ。

開き直ったのか、ハイ・トーンを連発してモンクの世界に果敢に挑みます。

モンクも悪いと思ったのか(?)あまりバッキングをつけていません。

この後、ベース~ドラムのソロが続き、ブレイキーはお得意の爆布を披露しますが

モンクの世界に配慮したのか、彼としては抑制気味に聴こえます。

続いてコールマンホーキンス(ts)。ここは彼らしいフレーズを練り上げて繰り返すようなプレイです。

最後のホーン・ソロはジジ・グライスのアルト・サックス。適応力があると見たのか、

モンクがバッキングでもけっこう仕掛けていて、やや水平的な妖しいフレーズを連発します。

そこを拾い上げてブロウするグライスはなかなかの優等生です。

この後、モンクが短いソロで受けて、再び奇妙なメロディをホーンが奏で

不思議な後味と共に終わります。

 

③Ruby, My Dear

モンクの代表的なバラッド。

ここではホーキンスとピアノトリオというカルテットとなります。

ホーキンスはスイング時代から活躍しているだけに

少し古いスタイルと捉えられることもありますが、

ここではモンクのユニークな曲想にぴったりとハマっています。

短いピアノのイントロを受けて、ホーキンスがメロディを提示。

非常にストレートで、必要以上に崩さない吹き方からは

曲に対する尊敬の念が感じられます。

そのままホーキンスのソロへ。

ベテランらしい味わいがあるのは、メロディをうまく取り入れた

ソロになっていることです。

モンクがメロディの構造を引用したバッキングをしているのを受けて

自由に泳ぎつつも、随所に曲の断片を織り交ぜていきます。

自分の男性的な音色と繊細な曲の融合を見事に果たしていると言っていいでしょう。

これを受けたモンクのソロはごく短く、乾いたタッチがホーキンスと好対照を成しています。

 

署名の偽造疑いで逮捕された団体の事務局長は、

アルバイトを集めた会社との事前の打ち合わせの場で

「書き写し作業」の実演を行っていたという報道があります。

 

この状況をモンクが知ったら何というか・・・

おそらくは無口なモンクのこと、じっと黙っているのでしょう。

それでも心の中では、

「そんなインチキはせず、人を納得させて動かすだけの努力・表現をしろ」

と考えるのではないでしょうか。