ハプニングス/ボビー・ハッチャーソン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

新型コロナウイルス、この1週間は「医療の危機」が切迫感を持って叫ばれました。

 

3日(木)には重症患者の急増を受けて、大阪府が緊急の対策本部会議を開催。

独自に設けた「大阪モデル」で「非常事態宣言」を示すことにしました。

同じ日、東京都の感染状況を分析・評価する「モニタリング会議」では

専門家が「通常医療との両立が困難な状況が生じ始めている」と述べ、

新規陽性者と重症患者の増加を防ぐことが最も重要だと指摘しました。

 

・・・と、ここまで書いてきて非常に違和感を覚えます。

「なぜ同じことが繰り返されているのだろう?」という疑問が拭えないからです。

 

ことし4月6日、東京都の医師会は記者会見で「医療的緊急事態宣言」を出しました。

「このままのペースで感染者が増えると医療提供体制が維持できなくなる危機感を覚えた」

というのが理由でした。

 

この時と今では状況が違います。

軽症や無症状の人への対策ではホテルの活用などが進んできました。

それでも、流行が激しくなるたびに右往左往し、医療現場にものすごい負荷がかかるという

「繰り返し」はなぜ避けられないのでしょうか?

 

おそらく、医療への支援が決定的に足りないのだと思います。

新型コロナの患者を受け入れる病院が、他の病気の患者受け入れや手術を回避するなどして

経営が不安定になるということはずっと指摘されてきました。

今回、厚生労働省のHPを見てみましたが、

病院などで感染拡大防止策を取った場合の補助はあったものの、

医療機関での人出確保や、手厚い待遇を約束する施策は見当たりませんでした。

実際、コロナで人出は必要になるばかりなのに、

病院で看護士が確保できなくなったという話をよく聞くようになっています。

 

開催できるかどうか分からない東京オリンピックに巨費を投じる動きがある一方、

生活の根幹を支える医療に対し心もとない状況が続いていることに

医療関係者も無力感を覚えていることでしょう。

現在の感染拡大はこれまでの場当たり的な対応を見直すチャンスでもあります。

同じようなことを繰り返さないために、

グローバル時代の感染症対策の前例となる医療支援を考えるべきでしょう。

 

今回は政府の対応とは違い、いい意味での「繰り返し」があるジャズを聴いてみましょう。

ボビー・ハッチャーソン(vib)の「ハプニングス」です。

 

ボビー・ハッチャーソン(1941-2016)は1960年代に「新感覚」の

バイブラフォン奏者として知られるようになりました。

注目されたきっかけの一つがエリック・ドルフィー(as)の

「アウト・トゥ・ランチ」という前衛的な作品への参加です。

このことからも分かるように従来のブルージーな奏者とは一線を画し、

モーダルでスピード感ある演奏や抽象的な表現ができる存在でした。

 

「ハプニングス」はハービー・ハンコック(p)の参加もあり

「新しい感覚」が横溢した内容で人気となっています。

実はリズム・パターンで「繰り返し」がある作品が収められているのも特徴で、

それが凡庸なものにならなかったことがハッチャーソンの力量を示しています。

 

1966年2月6日、ニュージャージーのルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでの録音。

 

Bobby Hutcherson(vib,marimba)

Herbie Hancock(p)

Bob Cranshaw(b)

Joe Chambers(ds)

 

②Bouquet

ハッチャーソンのオリジナル。

最初から最後まで4分の3拍子のリズム・パターンが繰り返されるスローなワルツです。

オリジナルのライナー・ノートを見るとハッチャーソンはエリック・サティの作品に触発されて

この曲を書いたそうです。

なるほど、この静謐なムードはサティにも通じるところがあります。

冒頭、ピアノとベースによるリズム・パターンに対し、

ハッチャーソンのヴィブラフォンがメロディとソロを重ねていきます。

クールな余韻を生かしたプレイはジャズというよりクラシックに通じるところがあります。

この辺りの知的な響きもハッチャーソンの個性の一つと言えるでしょう。

リズムが一定なのでかなり単調に陥りそうな展開なのですが、

ピアノがタッチを変えてバランスをとり、「緊張と弛緩」の流れをうまく作っています。

続くハービーのソロも静かな響きを湛えたものです。

音数を抑えてリリカルなプレイに徹することで、

リズムのユニークさを際立たせるプレイになっています。

 

④Maiden Voyage

ご存じ、ハービーの名作「処女航海」がカルテットで演奏されています。

おなじみのリズム・パターンが繰り返されるわけですが、

②と対照的に、こちらは躍動感に溢れています。

メロディはハッチャーソンが提示。

ハービーのリーダー作ではサックスとトランペットの2管で演奏されていましたが

こちらの凛とした響きも素晴らしい。

最初のソロはハービーで、少しずつ少しずつ置かれていくフレーズが

初めての航海での期待とちょっとした怯えを表しているかのようで実に新鮮です。

続いてハッチャーソンのソロ。こちらは当初こそ抑え気味ですが

後半はジョー・チェンバースの切れ味のいいドラムを受けて

攻めのソロに転じています。

モードを消化したグルーブと言えばいいのでしょうか、

自由なスペースにエモーションのある音を叩き込んでいるのが見事です。

 

他にも衝撃的にスタートする①Aquarian Moon やストレートアヘッドな⑤Head Startなど

印象的な曲が多いアルバムです。

 

医療をめぐる悲しい状況は、思いがけない事態が起こった時に総括し、

新しい対策を考えることの重要さを教えてくれました。

自分も含めて反省ですが、大変なことがひと段落すると

「ああ、終わって良かった」と思って忘れたくなるものです。

 

しかし、この国は壊滅的な戦争や大災害を経験して少しずつ前に進んできました。

少しでも次につなげるため、今後のあり方に注文をつけていきましょう。