12!/ソニー・スティット | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

 

最近、妙に納得したインタビュー記事がありました。

アメリカ大統領選挙が大詰めを迎えているということで

今月23日の朝日新聞にアメリカの政治学者、フランシス・フクヤマさんの話が掲載されていたのです。

見出しには「トランプ政治も反黒人差別デモも帰属意識の受け皿」とありました。

 

フクヤマさんは多くのアメリカ国民がトランプ大統領を熱烈に支持しているのはなぜか、

と問われてこう答えています。

 

米国政治の変容を理解する必要があります。

党派の対立軸が(成長重視の)右か(分配重視の)左か、

という経済政策によるものだったのが、

21世紀はアイデンティティー(帰属意識)に取って代わられました。

自身の尊厳や価値観を認められたいという欲求の受け皿になるかどうかが

重視される時代になったのです。

 

そして、フクヤマさんは背景として人種問題をめぐる対立と

グローバル経済やイラク戦争、金融危機によって起こった

「エリートと庶民の分断」を挙げています。

そこにつけ込んだのがトランプ氏のポピュリズム(大衆迎合)政治だったというのです。

「多くの白人労働者や低学歴の有権者がトランプ氏を

自分たちの価値観や尊厳を大事にしてくれる英雄と見なすから忠誠を誓う」

というわけです。

 

これは別にアメリカに限ったことではないと思います。

最近、管理職の同僚と話していてよく話題になるのですが、

若者たちの「承認欲求」が非常に強いという点で意見が一致することがあります。

 

ここからは私の推測ですが、日本の場合は「社会の流動化」の要素が強いのではないでしょうか。

終身雇用が崩壊して「一生同じ会社で働き続ける」イメージが薄くなる一方、

中間層が弱まり、「安定した暮らし」を得るのが簡単ではなくなっています。

そんな中で若者たちは「キャリアパス」というものに非常に敏感になり、

「自分の成果を認めてほしい」「自分は正当に評価されているのか」と

上司に詰め寄るわけです。

 

「承認欲求」は以前からあるものですが、

いまほど「短期での成果を認めてほしい」という要求は強くなかったはずです。

それだけ追い詰められているということでもありますし、

社会の変化のスピードが速くなったのでしょう。

自分の道を信じることができず、「まず評価をつかみ取る」という流れができてしまったのは

大変な時代だと思います。

 

ここで、「自分の道を信じ切っていた」であろうミュージシャンの演奏を聴いてみましょう。

ソニー・スティット(as、ts)の「12!」です。

 

ソニー・スティット(1924-1982)はアメリカ・ボストンの生まれ。

私が持っている日本盤CDのライナーには評論家のベニー・グリーンの言葉が紹介されています。

 

「スティットのレコードほど吹き込んだ時代のわからぬものはない」

 

どの時代の演奏を聴いても大きな変化がない、ということです。

彼は1920年生まれのチャーリー・パーカー(as)と同時代人であり、

この天才の陰に隠れてしまったものの、早くから独自にビバップのスタイルを確立していました。

それが彼に最もフィットしたものだったのか、スタイルを変えることのないまま

ストレート・アヘッドなジャズを演奏し続けました。

同じスタイルで円熟していった、まさに職人です。

 

「12!」は1972年12月12日の録音。タイトルはこの「12」の連続から来ています。

サイドのメンバーの充実もあり、フリーやエレクトリック化を経た時代の流れとは隔絶したような

「変わらないスティット」がいます。

 

Sonny Stitt(as、ts)

Barry Harris(p)

Sam Jones(b)

Louis Hayes(ds)

 

②I Got It Bad

有名なエリントン・ナンバー。

「ストレートなバラード」とはこういう演奏のことを言うのだと思います。

ピアノのイントロを受けてメロディを奏でるスティットのアルトが実に気持ちよく鳴り響くのです。

スティットの魅力として「迷いのなさ」がありますが、この演奏はその典型。

一音一音に確信があり、まっすぐに聴き手に迫ってきます。

4分ほどの時間をスティットが最後まで吹き切っていますが、

この構成を認めたプロデューサーのドン・シュリッテンに感謝したくなります。

 

④Our Delight

こちらは余裕の演奏。

普通であればもう少しアップテンポで演奏されることが多い曲ですが

スティットはアルトでメロディをやや遅く提示して旋律を楽しんでいるようです。

ソロに入ってからテンポが上がり、彼らしい伸びやかな展開となります。

メロディを分解したフレーズが随所に顔を出し、

聴いているのが本当に気持ちよくなるプレイです。

何よりも歌心が溢れていること、スピード任せにせず

溜めるところは溜めているのが名人芸という感じです。

続くバリー・ハリスのソロは彼らしいブルージーな感覚を漂わせた

気品ある内容になっています。

サム・ジョーンズのベース・ソロもいいのですが、

70年代の録音らしい電化した響きがちょっと残念。

もっとナチュラルな録音であれば、というのは贅沢な悩みか・・・。

 

この他、テナーでの⑤The Night Has A Thousand Eyes も秀逸な演奏です。

 

自分が50代になったから言えるのでしょうが、

若者たちには「短期的な評価」を気にしすぎることなく

もう少し伸び伸びやって欲しいなと思います。

 

自分も含めて「大したことなかった人」が、年月を重ねる中で

何とか「スタイル」と「居場所」を発見していくのを見てきました。

私はそうなれませんでしたが、迷いの振れ幅が大きかった人が

意外に大物になったケースもあります。

その一方でスティットのように、誠実に仕事していれば評価がついてくることもあります。

時には「大きく構える」姿勢がないと息が詰まるような気がするのですが。