最近、「老後の資金」についての議論が激しくなっています。
今月、金融庁の審議会が老後が30年間続くとするとおよそ2000万円が必要で、
「現役時代から投資を始めることが重要」だとする指針をまとめました。
高齢夫婦の世帯では現役世代に比べて収入が減るため、
平均で毎月およそ5万円の赤字が出て
「退職金と年金をベースに老後を過ごす」モデルは成り立たなくなっているというのです。
先月には希望する人が70歳まで働き続けられるようにするための制度案を
政府が取りまとめています。
要は日本の年金給付額がこれから抑制されていくため、
いままでのような生き方では行き詰まるということなのでしょう。
知られているように、日本の年金制度は現役世代が支払う保険料で
高齢者の年金の財源をまかなう仕組みになっています。
少子高齢化の中、現行の制度では現役世代が過重な負担で倒れてしまうので
年金の抑制は続いていくことになります。
それにしても、50歳になった自分のことを考えると、
「70歳まで働く」だの、「金融商品を買ってリスクを分散する」といったことが
錆ついてきた頭と体でできるのか?と不安になります。
現役世代にとっても、いつまでも組織の「上」に高齢者がふんぞり返っている
というのは決してプラスにならないと思います。
年功序列がかなり崩れたとはいえ、まだ「目上」が尊重される日本では
高齢者がいるとかなり気を遣わなくてはいけません。
30~40代のバリバリ働ける世代に思う存分活躍してもらわなくては
社会の活力も奪われていくことでしょう。
とはいえ、高齢者が早々にリタイアできないのも事実。
私は高齢者の「働き方の多様化」が急ぎ検討されるべきだと思います。
政府は「定年の延長」「再就職のあっせん」「起業支援」などを企業側に求めていますが、
もっと「ワークシェア」などが真剣に議論されるべきではないでしょうか。
高齢者の中には「働きたいけどフルタイムはしんどい」とか
「親やパートナーが病気になった」、「ボケない程度に働きたい」など
様々な背景・要望があるはずです。
年齢を重ねれば「個別の事情」が出てくることはしょうがない。
そこを後ろ向きに考えずに多くの人で仕事をシェアしたり、
労働力をプールして「働ける人がやる」システムを整えていけば
「70代の労働」というハードルもかなり低くなるような気がします。
「高齢者なりの働き方」を模索していくー
そんなことを考えていたら渡辺貞夫さん(as)の「カム・トゥデイ」を聴きたくなりました。
このアルバムが収録された当時、ナベサダは78歳。
往年と比べると明らかに肺活量は落ち、「吹きまくる」ことはできなくなりました。
しかし、このアルバムでは「単音の説得力」が以前より増しているのです。
1音1音に円熟味があり、音楽全体を見通す余裕があるからでしょうか、
他のメンバーとも見事に調和しているのです。
しかも凄いのは、そのメンバーがみな若手であること。
当時、ピアノのジェラルド・クレイトンは27歳、ベースのベン・ウィリアムスは26歳、
ドラムのジョナサン・ブレイクは34歳でした。
年齢差を全く感じさせずにカルテットをまとめ上げているところに
ナベサダの偉大さを感じずにはいられません。
2011年6月、ニューヨークのアバター・スタジオで録音。
渡辺貞夫(as)
Gerald Clayton(p)
Ben Williams(b)
Johnathan Blake(ds)
②Warm Days Ahead
ナベサダ作曲のナンバー。
「温かい日が間近に」というタイトルにあるように、
この曲は収録年に発生した東日本大震災の被災者に思いを寄せて書かれたものです。
と言っても深刻な要素はなく、むしろ現代的な躍動感にあふれた明るい曲調です。
ピアノ・トリオがリズミカルなイントロをつける中、貞夫さんがメロディを奏でます。
音色には温かさと艶やかさがあり、ソロに入ると最初こそ音数は少ないですが
やがて伸びやかさがある「いつものフレーズ」が顔を出します。
3人の若手たちはその生命力を示すかのように強いアクセントをつけているのですが、
彼らとの対話を楽しみながら音を選んでいるのが分かる演奏です。
続くクレイトンのピアノ・ソロは曲を見事に消化して、
力強いタッチを生かした奔放さが光っています。
ベン・ウィリアムスの骨太のベース・ソロから最後のメロディに戻るまで
カルテットの一体感が印象的です。
⑧Simpatico
こちらもナベサダのオリジナル・バラッド。
ボサノバのリズムに乗りながらゆったりと奏でられるメロディには
やわらかな哀愁があります。
この優しさがこもった音には「和」のテイストもあるような気がします。
最初のサックス・ソロは「うた」になっていると言ったらいいでしょうか。
それぞれの音に意味があり、流れが自然に感じられる点からも
「うた」として完成されているように聴こえてくるのです。
その影響がピアノ・ソロにも及んだのか、
クレイトンも郷愁を感じさせるような魅力的なフレーズを繰り出してきます。
5分に満たない短い演奏ですが、非常に美しい曲です。
このアルバムを聴いていると、
勢いのある若者と知恵のある高齢者の組み合わせが
大きな成果をあげることができると実感します。
年金制度が行き詰まりを見せると懸念されるのは
「世代間抗争」が起きることです。
何とか高齢者のパワーを有効に生かして
若者世代の納得も得られるよう、
多くの人がアイデアを出すべき時期に来ているようです。
