ジャスト・フレンズ/ズート・シムズ~ハリー“スイーツ”エディソン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

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昨日放送されたNHKの

「クローズアップ現代」を見て驚きました。

「産みたいのに産めない~“卵子老化”の衝撃~」

というサブタイトルの番組、内容は本当に衝撃的でした。


私はあまり知らなかったのですが、

卵子はどんどん老化し、若返ることはないそうです。

30歳頃から女性はだんだん妊娠がしにくくなり、

45歳では自然に妊娠することが難しいという、

医療関係者の指摘があるとのこと。


番組では、老化を防ぐために

卵子を凍結保存する独身女性の例が紹介されていました。

ちなみに、まだこの技術は確立されていないという指摘もあり、

将来の妊娠に役立つか、はっきりしていません。


それでも、33歳のこの女性は、将来がはっきり見えない中、

この方法にすがりついたそうです。

女性が社会に出たときは就職氷河期。

派遣社員として働いてきましたが、その仕事も減る中で、

資格を取る勉強に励んでいます。

つまり、将来の仕事と出産の可能性を残すため、

女性は「卵子凍結」という決断に踏み切ったのです。


こうした動きについては賛否両論あると思います。

それはひとまず置いて、私が思ったのは

「老化」を素直に受け入れる必要があるのではないか、

ということでした。

40代で出産する芸能人や、「美魔女」の存在が

クローズアップされ、技術などを駆使すれば

「不可能が可能になる」という風潮があると思います。


しかし、いのちあるもの、「老い」は不可避です。

そのことを前提にして、人生設計を考えた方が

いいのではないでしょうか。


もちろん、そこには「社会のあり方」が関わってきます。

卵子の老化が注目されるようになってきた背景には、

女性をめぐる社会的な変化があるのでしょう。

女性のキャリア社員が増える中で、

「いま妊娠のために責任ある仕事を手放したくない」と

考える方もいると思います。

一方で、非正規雇用で生活が安定しないため、

妊娠を「先送り」している女性も多いと思います。


この状況で全てを「個人の決断」に委ねるのは

酷というものです。

女性が「産みたい」と思ったときに産める環境や

法整備、それに雇用の確保が重要でしょう。

私の会社でも女性社員が増えていますので、

その難しさは重々承知していますが、

それ故に社会としての取り組みが必要だと思います。


「老い」を前提とし、その時々の選択や人生設計を

喜べる社会ー

そんなことを考えていたら、

「老い」の味わいのあるジャズを聴きたくなりました。

取り出したのはズート・シムズ(ts)と

ハリー・“スイーツ”エディソン(tp)が共演した

「ジャスト・フレンズ」です。


この作品が録音されたのは1978年。

当時、ズートは53歳で、いまの感覚なら十分若いのですが、

59歳で亡くなったことを考えると、既に晩年でした。

ハリー・エディソンはこの時、63歳。

かつてカウント・ベイシー楽団の黄金期に活躍し、

その甘美な音色から「スイーツ」というあだ名を

レスター・ヤング(ts)につけられたエディソン。

60代に入り、彼もまた枯れた雰囲気を増していました。


それでも、「枯れること」が「味わい深さ」につながるのが

ジャズのいいところ。

「ジャスト・フレンズ」はズートの諸作品の中で

ほとんど顧みられることのない地味なものですが、

2人の音楽への愛情がにじみ出た良質盤です。

特に寒いこの時期、心を温めるには最適だと言えるでしょう。


1978年12月18日・20日、ハリウッドでの録音。


Zoot Sims(ts,ss)

Harry "Sweets"Edison(tp)

Roger Kellaway(p)

John Heard(b)

Jimmie Smith(ds)


①Nature Boy

冒頭、ロジャー・ケラウェイ(p)のエレクトリック・ピアノが入ります。

ひょっとしたら、これが「純粋」(?)ジャズ・ファンの多い

日本でこの作品が受けなかった原因かもしれません。

しかし、オルガン的な余韻を生かしたエレピは、

嫌みがなく、気になることはありません。

むしろ、聴いていただきたいのはズートとエディソンの

素晴らしいプレイです。

まず、ズートがメロディを吹きますが、

おなじみの「ススス・・・」という長い息づかいを生かし、

しっとりとバラッドを歌い上げるのはさすが!

落ち着きのある円熟の演奏です。

続いてエディソンがミュート・トランペットで

ソロに入りますが、枯れて「か細い」音色には

何とも切ない味わいがあります。

ケラウェイのソロを経て、ズートの短いソロからメロディへ。

これも筆でスッスッと書いていくかのような、

「かすれ感」があるものです。

趣のあるジャズ、とでも言えばいいのでしょうか。


③My Heart Belongs Daddy

こちらは①とは異なり、躍動感と「枯れた」感覚が

ない交ぜになった面白いトラック。

メロディ部分がボサノヴァ・リズムになっているところがミソで、

ズートの渋い音色と不思議によく合っています。

エディソンがメロディ部で参加しますが、

こちらは「泣き笑い」とでも言うべき音色。

ズートとの対象が面白い効果を生んでいます。

ソロの最初はズート。ここでは典型的な4ビートで

ドライブの利いた展開に。

時に力の入った荒々しさも出てきます。

ケラウェイのソロの後、エディソンへ。

再びミュートで、ちょっとユーモアがある吹き方をしています。

やや達観したところもあるのか、

ノリのいい4ビートに押されるだけでなく、

少し引いたところから音楽を楽しんでいるようにも思えます。

「年の功」とでも言うのでしょうか。


④I Understannd

ソプラノに持ち替えたズートと、ケラウェイのデュオ。

これは「めっけもの」とでも言うべきトラックでしょう。

とにかく温かい。そして、優しい。

愛すべき「年季の入った」音楽です。


「老い」を乗り越えたいというのは、昔からあるテーマです。

遺伝子レベルでの医療技術が進化する中、

その傾向はますます強まるでしょう。

しかし、「老い」を見えなくすることで失うものもまた多いのでは?

素晴らしい音楽を生み出した老ミュージシャンの

演奏を聴いて、そんな気がしてならないのでした。