ニューヨーク・トリオ/ピーター・ビーツ | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


金曜日、久しぶりに早く仕事が終わり

(と言っても20時ですが・・・)、

職場のスタッフとジャズ・ライブに出かけました。


一緒に行ったのは10歳年下の男性。

「ジャズの生演奏を聴きたい」というのです。

周囲でジャズに関心を持ってくれる人は

めったにいないので、

これはいい機会だと出かけることにしました。


向かったのは新宿の厚生年金会館近くの「J」。

その名前はずいぶん前から知っていたのですが、

行ったのは初めてでした。

古いビルの細い階段を下りて地下へ。

1978年開業というだけあり、昭和の雰囲気があります。


店内に入ってみると、長方形のスペースに

お客さんがぎっしり。

年齢層は高めで、一人でやってきている方も

けっこういました。

正面にはステージがなく、お客と演奏者が

全く同じ高さで向き合います。

この「距離感がない」雰囲気、

私はNYのクラブ「スモールズ」を思い出しました。


この日、出演していたのは「早川泰子カルテット」でした。


早川泰子(p)

山下弘治(b)

勘座光(ds)

山田穣(as)


リーダーの早川さんは秋田を本拠地にして

活動するピアニスト。

ライブではジャズマンのオリジナルが多く演奏され、

その選曲が非常に良かったと思います。


ベースの山下さんが作曲した郷愁ある「Home」、

ベニー・グリーンの「ティービー・ソング(?)」、

ベニー・ゴルソンの「ウィスパー・ノット」、

モンクの「ストレート・ノー・チェイサー」・・・・


ジャズマンって本当にいい曲を書くなあ、と感心。

演奏では山田穣さんが絶好調で、

バンド全体をグイグイ引っ張っていました。


私は山田さんが参加したCDから

線が細い印象を持っていたのですが、

ライブで認識を変えました。

力強く、明快なトーンでスイングする演奏に、

ハード・バッパーとしての本領を見たのです。

やっぱりライブに行かなくては分からないことが

たくさんありますね。


ジャズマンのオリジナル曲を堪能したライブの後、

聴きたくなったのがピーター・ビーツ(p)の

「ニューヨーク・トリオ」。

なぜかと言うと、これも素晴らしいオリジナル曲が

多い作品だからです。


ピーター・ビーツはオランダ・ハーグ生まれ。

録音時(2001年)で30歳とライナーにあるので、

1970年か71年生まれでしょう。

母親がクラシック・ピアノを教えていて、

早くから音楽になじんでいたようです。

それが兄弟の影響もあり、エルビス・プレスリーや

ディープ・パープルにも関心を広げ、

さらにはジャズまで演奏するようになったとのこと。

アート・ブレイキー(ds)の「モーニン」を

兄弟とのバンドで取り上げたこともあったそうです。


才能を評価されたビーツが初めて発表した

リーダー作がこの「ニューヨーク・トリオ」。

初リーダーでお馴染みの曲を演奏するかどうか。

知名度の低い新人としては大いに悩むところでしょうが、

ビーツは9曲中6曲を自らのオリジナルで固めました。

非常に大胆ですが、見事な曲が多く、成功を収めています。


2001年5月22日、NYでの録音。


Peter Beets(p)

Rodney Whitaker(b)

Willie Jones Ⅲ(ds)


①Beet's Beat

スインギーであり、演奏することの喜びが

ストレートに伝わってくる曲。

曲名からもお分かりの通り、ビーツのオリジナルです。

まず、ピアノが奏でる清々しいメロディと

リズム陣の絶妙なブレイクを組み合わせたアレンジに

若きピアニストの才能を感じます。

ピアノ・ソロに入ると淀みなくフレーズが次から次へと登場。

そのスムーズさと、しっかりしたテクニックに、

聴き手はどんどん乗せられてしまいます。

現代版ハード・バップのスピード感が良く出た演奏です。


②The Game

マーチ調のリズムと哀感が絶妙に組み合わさった

ビーツのオリジナル。

ライナーでは「ウィスパー・ノット」と似たコード進行が

使われていることが指摘されています。

ビーツが正統的なハード・バップの遺産を

引き継いでいることが分かる演奏だとも言えるでしょう。

ピアノ・ソロでブルース・フィーリングが楽しめ、

彼がヤワなピアニストではないことが伝わってきます。


⑦Admirable

こちらもビーツの作曲。

上品で軽快。

さり気ない一曲ですが、

数々の「名人芸」がちりばめられています。

冒頭、ドラムのブラシが何とも気持いい

バッキングをつける中、

ビーツがヒラリと舞うような気持のよい

メロディを弾きます。

骨太なベース・ソロの後、

スピーディーなピアノ・ソロへ。

低音から高音まで音域が広く、

音数も多いのですが、

それがほとんど気にならないほど

「流れて」いくのです。

本当の技術がなければここまで何事もないように

聴こえる演奏はできません。

既に大物の予感さえ感じさせる充実した内容です。


ビーツのいいところは音楽を楽しんでいることが分かる

「前向き」な姿勢です。

やはり、本当に音楽に入れ込んでいる人の演奏は

説得力があるものですね。


そういえば、山田穣さんは演奏が終わってからも

店のBGMに合わせてサックスを吹いていました。

その「入れ込み具合」に本物のミュージシャンを

見た思いでした。