またジャズの巨人が逝ってしまいました。
ジョージ・シアリング(p)が今月14日、
心不全のため亡くなったのです。
91歳でした。
私はシアリングの良き聴き手ではありません。
代表作「9月の雨」を聴いたとき、
「ちょっと柔な音楽だな」と思いました。
品があって耳触りはいいのですが、
物足りなさを感じたのです。
「バードランドの子守唄」などの作曲能力は評価しつつ、
どこか遠ざけてきたミュージシャンの一人でした。
しかし、そんな私の認識を覆した
ある作品との出会いがありました。
ジム・ホール(g)とシアリングのデュオによる
「ファースト・エディション」です。
ピアノとギターのデュオと言えば、
ビル・エヴァンスとジム・ホールの
「アンダーカレント」(1962年録音)が圧倒的に有名です。
ジム・ホールは何を思ってシアリングと
同じ編成を組むことにしたのか?
そんな興味から、私はこの作品を購入しました。
正直、シアリングのピアノに惹かれてではなかったのです。
それが、「アンダーカレント」とは全く別の
インタープレイがここでは展開されていました。
内省的なエヴァンスとは違い、
「開かれた」明るさがあるシアリング。
さらに、エヴァンス以上にクラシック的な
志向が強いシアリングは、
時に対位法的な手法を取り入れ、
非常にカラフルな「おしゃべり」を行ったのです。
しっかりとした技量を身につけた
大人の職人同士の世界。
その中には落ち着いた交歓だけでなく、
スリリングな冒険もあります。
シアリングの「上品さ」に止まらない演奏に触れ、
まだまだジャズには奥深いものがあるのだなと
感じたのでした。
1981年9月、NYでの録音。
George Shearing(p)
Jim Hall(g)
①Street Of Dreams
冒頭、ギターが刻む「タッタッタッ」という単調なリズムの上を
シアリングの軽快なピアノが進んでいきます。
非常に「品のある」音色ですが、その間の取り方から
強烈なスイング感が窺えます。
少ない音でも空気を振動させることができる、
お手本のようなピアノです。
続いてホールのギター・ソロ。
ここでの彼は非常にリラックスしていて、
アコースティック・ギターを使っているのでは?
と思ってしまうほど柔らかい音色を響かせます。
音を引き伸ばす、おなじみのフレーズが随所に出てくる
気持ちのいいソロです。
次のシアリングのソロが優雅な響きを持っているのですが、
フェード・アウトなのがちょっと残念・・・
②To Antonio Carlos Jobim
タイトルの通り、ボサノヴァの巨人、
アントニオ・カルロス・ジョビンに捧げられた曲です。
シアリングが作曲しました。
これは、現代のスタンダードになってもおかしくない
名曲だと思います。
ジョビンの持つ繊細で哀感のある世界を、
本人とは全く別の角度から描き出しているのですから。
イントロでクラシックの対位法的な手法がとられ、
ピアノとギターが凛とした世界を描き出します。
一瞬、ジョビンの世界とかけ離れているように思えますが、
これに続くメロディが、洗練されながら哀愁漂うもので、
ボサノヴァに通じるものがあるのです。
南洋の温かい風とクラシックの格調が
融合された独特の世界。
ほとんどをメロディが占める演奏ですが、
シアリングの作曲能力の高さに驚かされ、
全く違和感がありません。
③Careful
ジム・ホールのオリジナル。
ここでは、二人がやや実験的なプレイをしています。
ゴツゴツした響きのある独特のメロディを奏でると、
まず、ホールのソロ。
途中、信号音が続くような摩訶不思議な
フレーズが登場し、彼のユニークさが際立ちます。
続くシアリングもタッチが強く、
不協和音にも聴こえかねないコードを連打。
実はシアリングもいろいろな冒険を
してみたかったのではと思わせる、
大胆なプレイです。
⑤Without Words
またもホールのオリジナルですが、
こちらは実験色のない、美しいバラッドです。
イントロで、ホールの奏でる柔らかなギターに
最小限のバックをつけるシアリングが素晴らしい。
バッキングのお手本とでも言うのでしょうか、
相手の出してくる音をしっかりと聴き、
本当に必要な音しか返さない。
それが、予測のつかない
ドキドキ感を生むことにつながります。
粋なプレイというのはこういうことなのでしょう。
やがて、メロディに入るとギターに躍動感が増し、
そのままソロへ突入します。
ここでのホールは喜びにあふれているようで、
シングル・トーンで伸びやかな音色を響かせます。
そのままメロディに戻り、シアリングのソロはありませんが、
二人の交流が温かいものであったことが
よく分かるトラックです。
ネットで調べた限りでは、
この作品はいま、廃盤のようですね。
CDが売れないなどと言われていますが、
良質でありながら埋もれている作品を世に出すのも
レコード会社の使命ではないでしょうか。
残念なことではありますが、
シアリングの訃報をきっかけに、
もっと多くの彼の作品にスポットライトが
あたることを望みます。
合掌。
