「いいんだけど、何かが違う・・・・」
この1週間ほど、ずっとそう思っていました。
「何かが違う」と思ったのは、例の「タイガーマスク」です。
昨年末から、漫画「タイガーマスク」の主人公を名乗っての
贈り物が各地で相次いでいます。
最近は「矢吹丈」や「月光仮面」が現れていますし、
贈り物もランドセルから文房具、高額の現金まで
幅広くなってきました。
児童養護施設などに支援の輪が広がることはいいことですし、
「タイガーマスク」の話を聞いて「何かをしたい」と
思う人が次々出てくるのもうれしいことです。
いいことずくめのはずなのですが、
この事態に対し、どうも何かが引っかかるような
気がしていました。
その理由が、きょうになって思い当りました。
寄付をするにあたって「タイガーマスク」である
必要はないのだ、と。
寄付行為自体は非常に尊いのですが、
それなら堂々と名乗り出ていいはずです。
そういうことが気恥ずかしいのであれば、
もちろん匿名を使う。
しかし、その匿名が「タイガーマスク」でなくても
寄付はできます。
こういう推測は我ながら意地が悪いのですが・・・・
「自分はタイガーマスクの“二番煎じ”」としている人には、
「世間に注目してもらいたい」という気持ちもあると思います。
マスコミが「新たなタイガーマスク」を
取り上げると期待しての寄付だとすれば、
この動き、やがてブームで終わります。
いっそのこと、年末年始は「タイガーマスク週間」にして
継続的な寄付を呼びかける、というのはどうでしょう?
「名前が出なくてもとにかく応援してあげたい」-
今回は、そんな気持ちを優先させたミュージシャンが
参加した作品を聴いてみましょう。
ルイ・スミス(tp)の「ヒア・カムズ・ルイ・スミス」です。
このアルバムは、スミスのデビュー作。
超一流とは言えないながら、輝かしい音色が魅力で、
典型的なハード・バッパーのスミス。
将来を期待されていました。
そんな彼のデビューに付き合ったのが
アルト・サックスの名手キャノンボール・アダレイ。
しかし、別のレコード会社と専属契約を結んでいたアダレイは、
変名(!)でセッションに駆けつけました。
「バックショット・ラ・ファンク」という変名は
いかにもウソっぽくて笑えますが、
アダレイは自分の名前を出すことよりも
若きトランペッターを応援することを優先したのです。
ブルーノートから発売されているこのアルバム、
もともとはボストンの「トランジション」というレーベルのために
録音されました。
経営に行き詰った「トランジション」からブルーノートが
音源を買い取り、「1584番」として発売。
スミス自身は後に音楽教師となり、
活動をしばらく休止します。
しかし、ジャズファンから忘れられなかったのは
ブルーノートの1500番台に作品を残せたということと、
アダレイの参加を得られたということがあります。
二重に幸運なミュージシャンだったのかもしれません。
1957年2月4日と9日、NYでの録音。
Louis Smith(tp)
Cannonball Adderley→Buckshot La Funk(as)
Duke Jordan(p 1,2,5)
Tommy Flanagan(p 3,4,6)
Doug Watkins(b)
Art Taylor(ds)
①Tribute To Brownie
トランペッター、クリフォード・ブラウンに捧げた
デューク・ピアソンの佳曲。
冒頭から切れのいいアート・テイラーのドラムをバックに
スミスが高らかにソロを吹きます。
一生懸命さが伝わってきて、これはスミスのプレイを
堪能するトラックか?と思ってしまいます。
ところが、最初にソロを取るのはアダレイのアルト・サックス。
しかも、これが彼らしい粘っこさとソウルを兼ね備えた、
なかなかのソロなのです。
のっけからリーダーのお株を奪いかねない熱演。
負けじと、スミスがソロで続きます。
クリフォード・ブラウンほどのビッグ・トーンはありませんが、
明るい音色で力強く吹く。
高速フレーズではヨレそうになるところをギリギリで
踏みとどまっている感じですが、
正統的なハード・バッパーとして評価できるレベルです。
「応援者」アダレイにスミスが火をつけられた演奏と
言えるでしょう。
④Stardust
有名スタンダードをスミスが情感たっぷりに吹ききっています。
サド・ジョーンズやブルー・ミッチェルなど、
やや「小粒」なトランペッターで
素晴らしいバラッドのセンスがある人がいますが、
スミスもこの中に当てはまるようです。
特にメロディでのストレートな歌いっぷりが良く、
「余計なものを足さない」場合の効果が出ています。
ソロでリズムのテンポがやや早くなる展開がありますが、
スミス自身はどっしり構えていて、
あせらず、ゆっくりとソロをとっていく。
このあたりの抑制具合も
ハードバップの名手が持つ好ましいものです。
ワン・ホーンならではの味わいがあるバラッド。
⑤South Side
スミスのオリジナル。
2ホーンが生きる楽しいアレンジが施されていて、
スミスの作曲能力に驚きます。
最初のソロはスミス。
アルバムの中でもかなり安定したブローが聴け、
爽快なハイ・ノートを連発しています。
アダレイのソロは肩の力が抜けているものの、
相変わらず驚異のテクニック。
コルトレーンもびっくり(?)の音の連打、連打。
このスタミナはどこから来るんでしょうねえ。
全く手を抜いていない応援に脱帽です。
「タイガーマスク」にケチをつけてしまった私ですが、
昨今、世知辛い世の中になっていることは認識しています。
おそらく、世間の注目が集まったのも、
「久しぶりのいい話」だということがあるのでしょう。
ただ、無償の寄付をする場合は、
相手に「贈る」ことで自分も励まされる、
それでいいのだという「大人の対応」があっても良いと思います。
