サムシング・トゥー・リブ・フォー/ヤン・ラングレン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


16日(土)、辛島文雄さん(p)のライブに行って来ました。

辛島さんのライブに行くのはずいぶん久しぶりです

http://ameblo.jp/slowboat/entry-10257379332.html


今回は吉祥寺にあるライブ・ハウス「サムタイム」の

35周年記念ライブ。

以前、西荻窪に住んでいた時にも訪れたことがあり、

私のお気に入りの場所です。

しかし、このところは一人で行くのがちょっと寂しく、

足が遠のいていました。


昨日は興味を持ってくれた会社の人と出かけました。

この方、クラシックが好きで、

かつて部活でパーカッションを担当していたそうです。

辛島文雄カルテットのプレイを聴いて、

「ジャズって体力が必要ですね」と言っていました。

確かに、当日のプレイは辛島さんらしく、

熱のこもった素晴らしいものでした。

メンバーは以下の通り。


辛島 文雄(p) 

岡崎 正典(sax) 

川本 悠自(b) 

小松 伸之(ds)


この日の選曲は有名な曲が多く、

「ディア・オールド・ストックホルム」や「ブルー・モンク」などが

次々に飛び出しました。

その中で、「どこかで聴いたような・・・でも、記憶がはっきりしない」

という一曲がありました。

それが、「エリントンの片腕」ビリー・ストレイホーンが作曲した

「ブラッド・カウント」。

辛島さんは「心電図という意味のタイトルです」と言っていました。

どこか悲痛でありながら、美しいバラードで、

聴きながら「なぜこれが“心電図”なんだろう?」

と考えてしまったのです。


自宅に戻って、かすかな記憶を探りながらCD棚に向かいました。

すると、ありました、「ブラッド・カウント」。

スウェーデンの名手、ヤン・ラングレン(p)が

エリントンに捧げたアルバム「サムシング・トゥー・リブ・フォー」に

この曲が収録されていたのです。


ヤン・ラングレンについては以前にも書いたことがあります

(自己ブログへのリンクが多くて恐縮ですが・・・)

http://ameblo.jp/slowboat/entry-10236549626.html


ストレート・アヘッドで、伝統に即したプレイをするラングレンですが、

どこか「新しい香り」も持っています。

このアルバムでは、ピアノ・トリオにオーケストラを加え、

エリントンの世界に新たな解釈を加えています。

オーケストラはフルートやオーボエ、クラリネットいった木管楽器と、

バイオリンやチェロなどの弦楽器で構成。

オーケストラとピアノトリオが絶妙のハーモニーを奏でる

アレンジも見事です。


では、「ブラッド・カウント」と、いくつかのトラックをご紹介しましょう。


1998年10月6~8日、ストックホルムのラジオ局スタジオで録音。


Jan Lundgren(p)

Mattias Hjort(b)

Rasmus Kihlberg(ds)


オーケストラは省略します。

アレンジはパーカッション奏者の Ola Bothzen と

Bo Sylven(編曲家?)が担当しています。


①Something To Live For

エリントンとストレイホーンの共作となっていますが、

二人が知り合った時にストレイホーンが持参した曲とも言われ、

実質的に彼の曲なのでしょう。

もとはバラッドなのですが、非常に斬新な解釈が施されています。

まず、弦とホーンによる優雅なイントロ。

結婚式の会場で使われそうな、繊細で美しい旋律です。

ところが、ボサノヴァのリズムが刻まれ始めると、

曲は一気に躍動的なものになります。

ストリングスの上を駆け回るように

ピアノがスピード感のある演奏を始めるのです。

ストリングスが抜けると、ピアノ・ソロへ。

ラングレンはグライダーが空を舞うかのような、

余裕がありながらもスイスイ進むプレイを展開。

アルバムを象徴する現代的な演奏となっています。


④Isfahan

こちらもエリントン~ストレイホーンによる共作。

原曲はエリントンの「極東組曲」に入っているそうで、

タイトルはイランの都市「エスファハーン」のこと?でしょうか。

全体的に非常に軽快なタッチのアレンジで、

私のイメージでは「秋の快適な散歩」に聴こえます。

ストリングスとベースによる思わせぶりなイントロから、

ラングレンの洒落たピアノに移る展開が良い。

メロディはピアノ主導で提示されますが、

オーケストラがすっと寄り添うように入ってきて、

ピアノと一体となる様は圧巻です。

ベース・ソロが提示されてから、ピアノ・ソロへ。

ここでもオーケストラが「出過ぎず、引きすぎず」という

絶妙のバックをつけ、すっかりいい気分になれます。


⑧Blood Count

こちらはストレイホーンの作曲。

冒頭から、悲しげなメロディがピアノで提示され、

それを受けるようにオーケストラが哀感のあるバックをつけます。

少しギル・エヴァンスを思わせるホーンを中心とした

繊細な調べにピアノが重なるアレンジが見事です。

ピアノ・ソロに入ってからもオーケストラとピアノの役割は対等。

スローなピアノ・ソロにクラリネットがかすかにからむ演奏を聴くと、

哀感が高まり、胸がいっぱいになります。

ラングレンのプレイは、こうしたバラッドでも

「情に流されない」端正な表情を持っており、

それがかえって曲に説得力を持たせています。


「ブラッド・カウント」ですが、曲の由来が

アルバムのライナーに書いてありました。

ストレイホーンが白血病で病院に入院しているときに書いた曲で、

タイトルの意味は「血球の計算値」だそうです。

ということは、ストレイホーンはその数値を見ながら

何ともやりきれない日々を送っていたことになります。

メロディの悲痛さが理解できましたが、

それを美しさに転化したところがストレイホーンのすごいところです。


それにしても、辛島さんは曲の意味を知らずに

演奏していたのでしょうか?

他のメンバーが持ってきた曲なのかもしれませんが、

勘違い?しつつも見事な演奏ができてしまうところも

ジャズの不思議ですね。