サッカーW杯で日本が敗れ、「祭り」が終わると
参院選の話題が目立ってきました。
論点となっているのは「消費税の増税」。
私は、この論点が出てきたこと自体は
いいことだと思っています。
経済は「低成長」の時代に入りました。
黙っていても税収が伸びる時代ではありませんし、
少子高齢化も進んでいます。
いまの社会保障水準だって守れないのが確実なら、
何らかの手を打たなければなりません。
ただ、「消費税10%」が本当にいいのかは分かりません。
なぜ「10%」なのか、そもそも「消費税」がいいのか、
議論が尽くされるべきだと思います。
さらに、「増税でどんな社会を作るのか」
きちっとしたビジョンを示してほしいと思います。
それがないまま、「低所得者には負担分を還付します」とか、
細かいテクニック論を言われても困ってしまいます。
今回、菅首相は「手続き」でも
ミスをしているような気がします。
消費税議論を「思いつき」っぽく展開しているからです。
ひょっとしたら本人は熟慮の上で
議論を始めたのかもしれません。
しかし、党内でのコンセンサスすらできていないまま
打ち出したのは失敗でしょう。
国民としては鳩山首相の「普天間の悪夢」を
重ねてしまいます。
「準備がないまま、政策をポロポロ出す内閣」が
どのような末路を迎えたか、
まだ記憶に新しいのですから。
ジャズでは、その即興性のゆえに、
「思いつき」が成功することがあります。
最近発表された、キース・ジャレット(p)の「ジャスミン」。
ベースのチャーリー・ヘイデンとのデュエットで作られた
美しい作品です。
ライナー・ノートによると、この作品は
ちょっとした「思いつき」をきっかけに生まれました。
かつて「アメリカン・カルテット」というグループで
共演していた二人。
その後、30年ほど一緒に演奏をすることはなかったのですが、
ヘイデンについてのフィルム制作が行われることになり、
二人は2~3曲、軽いセッションをしました。
その時、キースに「ピン」と来るものがあったようです。
彼はヘイデンを誘い、自宅のスタジオで数日間、
セッションを続けました。
この時は発表することになるかどうかすら
確信がなかったそうです。
結果的に、スローなバラッドが収められた
極上の作品が出来上がりました。
キース・ジャレットというと、
超人的なイマジネーションを披露したピアノ・ソロや、
「スタンダーズ」というトリオでの実験が印象的です。
ここでは、旧知の友人と、穏やかに、
音楽を慈しむかのような演奏が聴けます。
キースに「革新性」を求める人からすると物足りないでしょうが、
私は「深化した」音が聴けるこの作品を気に入りました。
2007年3月、CAVELIGHT STUDIOでの録音。
Keith Jarrett(p)
Charlie Haden(b)
①For All We Know
有名なスタンダードを、キースとヘイデンが
本当に「飾らずに」演奏しています。
最初のキースの一音を聴くだけで、
無駄なものが一切そぎ落とされた、
素朴な音が現れていることが分かります。
ピアノのテンポは終始変わらず、ひたすらスロー。
「スタンダーズ」などで聴かれる饒舌さはなく、
ひたすら静かに、澄んだ音が刻まれていきます。
カントリー・ミュージックが根っこにあるような
温かさが感じられるのも魅力。
バックのヘイデンは、太く、よく響くベースを奏でつつ、
完璧にキースに寄り添っています。
決して邪魔にはならない、
しかし存在感のある理想的なベースです。
③No Moon At All
私は全く知らない曲ですが、
Redd Evans/David Mannという人が作った
スタンダードのようです。
「歌ものらしい」響きがある曲で、
①などと比べると、ちょっと華やいだ雰囲気があります。
かつて「スタンダーズ」がナット・アダレイ(tp)の
「オールド・カントリー」という佳曲を
「発掘」したことがありました。
キースは忘れられていた名曲を再発見するのが
本当にうまい人です。
通常の4ビートに乗って、キースがスイングします。
ただ、ここでも饒舌になることはなく、
快調なテンポの割には抑え気味の演奏です。
メロディに着想を得たようなフレーズが続く、
愛らしいトラックと言えます。
⑦Goodbye
こちらはゴードン・ジェンキンス作曲の有名なスタンダード。
もともと暗いトーンの曲だからでしょうか、
キースのピアノ音が「深い」感じがします。
暗闇の中に一つ一つの音が溶け込んでいくような、
「沈む」感覚があるのです。
悲しい時に聴くと心に響いてきそうな、
ピュアでありながら底が深い世界です。
この作品、「思いつき」でレコーディングされましたが、
発表されるまでには時間がかかりました。
キースとヘイデンはふさわしいトラックの選択と、
曲順を考えるのに3年を要した(!)そうです。
きっかけは軽いものであっても、
作品として完成形に持っていくまでには
熟考を重ねたことになります。
菅首相も「歴史に残る大仕事」をやりたいのであれば、
どこかで「慎重に練り上げる」作業をしてほしいものです。
