ジャスミン/キース・ジャレット&チャーリー・ヘイデン | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


サッカーW杯で日本が敗れ、「祭り」が終わると

参院選の話題が目立ってきました。

論点となっているのは「消費税の増税」。

私は、この論点が出てきたこと自体は

いいことだと思っています。


経済は「低成長」の時代に入りました。

黙っていても税収が伸びる時代ではありませんし、

少子高齢化も進んでいます。

いまの社会保障水準だって守れないのが確実なら、

何らかの手を打たなければなりません。


ただ、「消費税10%」が本当にいいのかは分かりません。

なぜ「10%」なのか、そもそも「消費税」がいいのか、

議論が尽くされるべきだと思います。

さらに、「増税でどんな社会を作るのか」

きちっとしたビジョンを示してほしいと思います。

それがないまま、「低所得者には負担分を還付します」とか、

細かいテクニック論を言われても困ってしまいます。


今回、菅首相は「手続き」でも

ミスをしているような気がします。

消費税議論を「思いつき」っぽく展開しているからです。

ひょっとしたら本人は熟慮の上で

議論を始めたのかもしれません。

しかし、党内でのコンセンサスすらできていないまま

打ち出したのは失敗でしょう。

国民としては鳩山首相の「普天間の悪夢」を

重ねてしまいます。

「準備がないまま、政策をポロポロ出す内閣」が

どのような末路を迎えたか、

まだ記憶に新しいのですから。


ジャズでは、その即興性のゆえに、

「思いつき」が成功することがあります。

最近発表された、キース・ジャレット(p)の「ジャスミン」。

ベースのチャーリー・ヘイデンとのデュエットで作られた

美しい作品です。


ライナー・ノートによると、この作品は

ちょっとした「思いつき」をきっかけに生まれました。

かつて「アメリカン・カルテット」というグループで

共演していた二人。

その後、30年ほど一緒に演奏をすることはなかったのですが、

ヘイデンについてのフィルム制作が行われることになり、

二人は2~3曲、軽いセッションをしました。

その時、キースに「ピン」と来るものがあったようです。

彼はヘイデンを誘い、自宅のスタジオで数日間、

セッションを続けました。

この時は発表することになるかどうかすら

確信がなかったそうです。

結果的に、スローなバラッドが収められた

極上の作品が出来上がりました。


キース・ジャレットというと、

超人的なイマジネーションを披露したピアノ・ソロや、

「スタンダーズ」というトリオでの実験が印象的です。

ここでは、旧知の友人と、穏やかに、

音楽を慈しむかのような演奏が聴けます。

キースに「革新性」を求める人からすると物足りないでしょうが、

私は「深化した」音が聴けるこの作品を気に入りました。


2007年3月、CAVELIGHT STUDIOでの録音。


Keith Jarrett(p)

Charlie Haden(b)


①For All We Know

有名なスタンダードを、キースとヘイデンが

本当に「飾らずに」演奏しています。

最初のキースの一音を聴くだけで、

無駄なものが一切そぎ落とされた、

素朴な音が現れていることが分かります。

ピアノのテンポは終始変わらず、ひたすらスロー。

「スタンダーズ」などで聴かれる饒舌さはなく、

ひたすら静かに、澄んだ音が刻まれていきます。

カントリー・ミュージックが根っこにあるような

温かさが感じられるのも魅力。

バックのヘイデンは、太く、よく響くベースを奏でつつ、

完璧にキースに寄り添っています。

決して邪魔にはならない、

しかし存在感のある理想的なベースです。


③No Moon At All

私は全く知らない曲ですが、

Redd Evans/David Mannという人が作った

スタンダードのようです。

「歌ものらしい」響きがある曲で、

①などと比べると、ちょっと華やいだ雰囲気があります。

かつて「スタンダーズ」がナット・アダレイ(tp)の

「オールド・カントリー」という佳曲を

「発掘」したことがありました。

キースは忘れられていた名曲を再発見するのが

本当にうまい人です。

通常の4ビートに乗って、キースがスイングします。

ただ、ここでも饒舌になることはなく、

快調なテンポの割には抑え気味の演奏です。

メロディに着想を得たようなフレーズが続く、

愛らしいトラックと言えます。


⑦Goodbye

こちらはゴードン・ジェンキンス作曲の有名なスタンダード。

もともと暗いトーンの曲だからでしょうか、

キースのピアノ音が「深い」感じがします。

暗闇の中に一つ一つの音が溶け込んでいくような、

「沈む」感覚があるのです。

悲しい時に聴くと心に響いてきそうな、

ピュアでありながら底が深い世界です。


この作品、「思いつき」でレコーディングされましたが、

発表されるまでには時間がかかりました。

キースとヘイデンはふさわしいトラックの選択と、

曲順を考えるのに3年を要した(!)そうです。

きっかけは軽いものであっても、

作品として完成形に持っていくまでには

熟考を重ねたことになります。

菅首相も「歴史に残る大仕事」をやりたいのであれば、

どこかで「慎重に練り上げる」作業をしてほしいものです。