ソニー・クラーク・クインテッツ/ソニー・クラーク | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


よく晴れた土曜日、六本木の国立新美術館で開催されている

「ルーシー・リー展」に行ってきました。

http://www.lucie-rie.jp/index.html


20世紀を代表する陶芸家の回顧展。

私は特に陶芸に興味があるわけではなく、

本当は同じ美術館で開催されている「オルセー美術館展」に

行こうと思っていたのです。

しかし、チケット窓口まで来てみると、

もう少しで終わってしまうこの陶芸展の写真が美しく、

予定を変更して足を運んでみました。


250点の作品が並べられた館内。

このユダヤ人女性陶芸家が作り出す作品は

シンプルで、かつ繊細なものでした。

特に、非常に薄く仕上げられた鉢やカップは

柔らかいながらも凛とした風情があります。

ピンクやブルーを大胆に取り上げた色彩センスも

印象的でした。


その中で、私が「惜しい!」と呟いた作品群がありました。

作家が、ウェッジ・ウッド社の依頼を受けて作った

「カップとソーサーのプロトタイプ」です。

ブルーと白を使ったカップは、試作品でありながら

優美なフォルムが素晴らしく、

発売されていればぜひ欲しいと思わせるものでした。

残念ながら、これらのカップはウェッジ・ウッドから

世に出ることはなく、「お蔵入り」となったのです。

美術館では、その経緯について詳しい説明はありませんでしたが、

会社側の都合によるものだったとのこと。


ジャズでも、録音されていながら、

何らかの事情で「お蔵入り」となった作品があります。

そうしたものの中で、長らく発売が待たれていたのが

ソニー・クラーク(p)の「ソニー・クラーク・クインテッツ」でしょう。

ブルーノートという、ジャズの名門レーベルで

レコード番号(1592)まで決まっていたにもかかわらず、

発売されなかった一枚です。


この作品が渇望された理由は、

希少性だけでなく、参加メンバーがすごいからです。

5曲中、2曲はソニー・クラークの代表作

↓「クール・ストラッティン」と同じセッションで録音されたもの。


「哀愁のピアニスト」ソニー・クラークが大好きな日本人が

放っておくわけがありません。

実際、本作は録音から20年ほどを経て、

東芝EMIによって「発掘」され、日本で日の目を見たのでした。


ここには2つのセッションが収録され、

メンバーも変わっています。


1957年12月8日

Sonny Clark(p)

Clifford Jordan(ts)

Kenny Burrell(g)

Paul Chambers(b)

Pete La Roca(ds)


1958年1月5日

Sonny Clark(p)

Art Farmer(tp)

Jackie McLean(as)

Paul Chambers(b)

Philly Joe Jones(ds)


二つのセッションともに、良質なハードバップを

聴くことができます。

ただ、やはり聴きものは「クール・ストラッティン」と

同じセッションでしょう。


①Royal Flash

他のアルバムでは「ニカ」という曲名がついている

ソニー・クラークのオリジナル。

1958年「クール・ストラッティン」と

同じメンバーによる演奏です。

クラーク独特の「哀愁メロディ」が二つのホーンで

奏でられるだけで、グッときてしまいます。

最初のソロはマクリーン(as)。

ブルージーで、「泣き」が入った節回しを聴くと、

このセッションの充実具合が分かります。

ただ、ちょっと「安定感」があって、

「クール・ストラッティン」のように踏み込んだ感じには

なっていません。

続いてはアート・ファーマー(tp)。

こちらは柔らかいトーンを生かしたソロになっていて、

マクリーンとは異なるアプローチになっています。

思えば、この二人の「対照性」がセッションを

価値あるものにしたのでしょう。

リーダーのクラークのソロも好調。

随所に彼らしい哀感が漂う内容です。

リズムがしっかりしているためか、

安心してスイングしている感じが伝わってきます。


②Lover

ロジャース~ハート作曲のスタンダード。

こちらも①と同じメンバーです。

フィリー・ジョーの強烈なドラムに煽られて、

バンドが猛スピードで駆け抜けます。

最初のソロはマクリーン。

非常に攻撃的なソロで、あふれんばかりの

アイディアが飛び出してきます。

しかし、「追いまくられている」という感じではなく、

どこかに演奏を楽しんでいる余裕があります。

このメンバー、やっぱり息が合っているのでしょうね。

続くファーマーも①と比べてかなりアグレッシブなプレイ。

随所でシャウトしており、彼の柔らかいトーンの裏に

強い意志があることが分かります。

この後、ソロで登場するフィリー・ジョーの乾いたドラムも

素晴らしい。


この作品、「お蔵入り」となった理由は、

クラークのレコード販売が不振だったため、

という説があります。

しかし、はっきりしたことは分かりません。

何はともあれ、発表されてくれれば、

私たちはその内容を楽しむことができます。

アーティストが「発表に値する」と思ったものであれば、

できるだけその評価を世に問うてもらいたいものです。