ブルー・トレイン/ジョン・コルトレーン | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


少し前のことになりますが、

ある本を一日で読了しました。

アメリカの小説家、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」。

出版されたのが1953年、近未来を扱ったSF小説です。


普段は仕事に追われている私ですが、

時々、「名作」や「古典」と言われるものを読みたくなります。

あまりに情報の更新が早いこの時代、

ともすれば自分の指針を見失ってしまう。

時代を超えて愛されている書物には、

何かヒントがあるような気がするのです。


私が興味を惹かれたのは、その設定でした。

作品中の近未来の世界では、「焚書官」という

「本を焼くのが仕事の公務員」がいるのです。

本は「人間に頭を使わせ、心の平和を脅かすもの」とされ、

読むことも所有することも認められていません。

本を所有していることがばれると、

焚書官がやってきて、焼き払ってしまうのです。


その代わり、人々は耳にはめる超小型ラジオや、

家の壁いっぱいに取り付けられた大型テレビで娯楽を提供され、

それなりに「楽しく」生きています。

小説では、焚書官の一人がふとしたことから

本を手にしてしまうことをきっかけに、

ストーリーが展開していきます。


読み進むうちに、小説で描かれている世界が、

現代と実に似ていることに気がつきました。

主人公の焚書官に対し、上司が説教をしている

言葉を引用しましょう。


かつては書物が、ここかしこ、いたるところで、

かなりの人たちの心に訴えていた。

(中略)

それが二十世紀になると、カメラのうごきがすばやいものになる。

本だって、それにつれて短縮され、どれもこれも簡略版。

ダイジェストとタブロイド版ばかり。

すべては煮つまって、ギャグの一句になり、

かんたんに結末に達する。

(ハヤカワ文庫SF、宇野利泰 訳)


時代は21世紀になりましたが、

非常に状況は似ていると思います。

ネット時代になり、情報があっという間に広がる世界。

素早く更新される情報は断片的なものになります。

書籍の世界では、お手軽な解説をしてくれる新書が花盛り。

いまや「ヤフー」のポータルサイトのニュースでさえ、

ワンクリックしただけでは全文は表示されません。

まず、「簡略記事」が出てくるのです。

それだけ人々は忙しく、「ダイジェスト」で

現状を把握することに追われているのでしょう。


しかし、「断片」ばかりを消費することでいいのでしょうか?

「華氏451度」では、書物を読むことで身につく

「本質を見極める力」に希望を見出しています。

本をそれほど読まなくなった自分のことも含め、

いろいろ考えさせられる内容でした。


音楽の世界でも「ダイジェスト化」は進んでいます。

曲はダウンロードして聴くものになりましたし、

ネットでの試聴も一般的になりました。

アルバム全体を聴くモチベーションは少なくなっているでしょう。


それでも、作品全体を耳にすることで、

初めてその時代の息吹や、音楽の持つ力が

分かることがあると思います。

そんな「全てを味わいたくなる」ような作品を

今回は聴いてみましょう。

ジョン・コルトレーン(ts)の「ブルー・トレイン」。

いわずと知れた傑作ですが、

この作品は全体を通して聴くことで味わいが

いっそう増してきます。


1957年、コルトレーンはセロニアス・モンク(p)との

共演を経て、急激に成長していました。

そんな彼が、ハード・バップの名手たちと組んで、

実に伸び伸びとしたプレイを聴かせます。

コルトレーンの持つシリアスな面と、

ハード・バップの解放感が絶妙にブレンドされた、

ジャズ史上に輝く傑作。

これを耳にせずに、当時の熱気は語れないでしょう。


1957年9月15日の録音。


John Coltrane(ts)

Lee Morgan(tp)

Curtis Fuller(tb)

Kenny Drew(p)

Paul Chambers(b)

Philly Joe Jones(ds)


①Blue Train

コルトレーン作曲のブルース。

この曲の魅力は冒頭の一瞬に尽きると

私は考えています。

3つのホーンが提示する重厚なテーマ。

その重たい空気を切り裂くように

コルトレーンのソロが入ってきます。

その瞬間、テナーの音色のなんと力強く、

確信に満ちていることか!

コルトレーンの成長が如実に感じられる演奏です。

この後、コルトレーンの素晴らしい構成のソロ、

リー・モーガンの挑発的なトランペットなど、

聴きどころは満載ですが、

私は冒頭の「あの瞬間」を聴くたびに唸らされています。


②Moment's Notice

躍動感に富んだコルトレーンのオリジナル曲。

爽快でスピード感のあるコルトレーンのテナーに

他のホーンが絶妙にからむメロディの設計が素晴らしい。

ブレイクを巧みにはさんでいくリズムもアクセントを

つけています。

最初のソロはコルトレーン。

彼が後年、進化させていく「高速フレーズ」の

序章がここにあります。

個人的には、この時の演奏の方が親しみやすく、

スピードもちょうどよい(?)感じがします。

続くカーティス・フラー(tb)はコルトレーンほどの

スピードはないにせよ、

滑らかなフレーズを次々に繰り出します。

やはりモダンなセンスを持った人なんだなあと感心。

そして、圧巻はリー・モーガンです。

ここまで熱く、それでいてふらつかない演奏を

よくもまあ、20歳に満たない若者ができるものだと

圧倒されます。


③Locomotion

コルトレーン作曲のアップ・テンポのブルース。

ここでも各ホーン奏者が素晴らしいソロを聴かせますが、

見逃せないのがリズムのタイトさ。

まず、ポール・チェンバースのベースがどんどん前のめりで

ソリストを煽ってきます。

フィリー・ジョーのドラムスも実にハード。

この曲も時々ブレイクが入るのですが、

そこに聴きどころがあります。

ドラムがふっと途切れるときの静寂と、

再開するときの爆発的な力強さ。

そのコントラストの激しさにくらっとするのです。

ドラム・ソロの歯切れのよさも聴きものです。


④I'm Old Fashioned

このアルバム唯一のバラッド。

まず、コルトレーンによる感情を抑制したメロディの提示。

非常に繊細な表現です。

フラーのソロに続き、ケニー・ドリューのピアノ・ソロがあります。

これが全体の雰囲気を大切にし、

曲を慈しんでいるかのようなソロで非常に素晴らしい。

続くモーガンも感情は抑えているのですが、

それでもあふれ出てくる熱情があり、

心に訴えてくるソロとなっています。

モーガンがそのままメロディに入っていく構成も

心憎いです。


⑤Lazy Bird

ここでも冒頭のリー・モーガンのソロがブリリアント!

勢いといい、楽器の鳴りっぷりといい、鮮やかです。

コルトレーンはここでは伸びやかなトーンと

高速フレーズを併せ持った構成のソロを聴かせます。

バンド全体が一体となり、息が合っているところを示した、

エンディングにふさわしいトラックになっています。


聴き終わると、ミュージシャンそれぞれの才能の輝き、

そして、それらをまとめあげたプロデュース力のすごさを

実感してしまいます。

全ての曲を聴きとおすことで、

「ドキュメンタリー」としての迫力を味わいつくすことが

できる作品だと言えるでしょう。


こうした傑作を聴くと、

「何が優れているのか」という勘が

働きやすくなります。

おそらく、他の作品を相対化する、

確かな指標が得られるのでしょう。


情報にしても同じこと。

ジャンクな情報ばかりに接するのではなく、

時には目からウロコが落ちるような

上質な読書をしなければいけませんね。