ラッキー・ストライクス/ラッキー・トンプソン | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


先日の3連休、札幌に行ってきました。

初日は実家に泊めてもらうことになっており、

私は久しぶりの休みをダラダラ過ごそうと思っていました。


しかし・・・

実家に着いてみると、その日は既にススキノで飲む!

ということになっているではありませんか。

飲むのも「ダラダラ」のうちじゃないか、ですって?

確かにそうなのですが、いまの若者のように(?)

家でまったり過ごすのが嫌いではない私は少々慌てたのです。


結局、夜の7時過ぎに出発、ススキノへ向かいました。

メンバーは父、伯父、兄、私という、珍しい顔ぶれ。

まず、このブログでもおなじみ、ライブハウスの

「スローボート」へ向かったのですが、

あいにく時間が早く、まだ開いていませんでした。

そこで、お隣のビルにある居酒屋でしばし時間をつぶすことに。


ビールを飲みながら世間話をしていた時のことでした。

テーブルに色白のかわいいお姉さんがやってきたのです。

ミニスカートで手には小さなカゴを持っており、

明らかに居酒屋の店員ではありません。

何事かと思っていると、お姉さんが一言。

「この中でおタバコをお吸いの方はいらっしゃいませんか?」

そう、お姉さんはタバコの販売促進のため、

テーブルをまわっていたのです。


かつて父と伯父はヘビー・スモーカーでしたが、

病気などを機にやめてしまいました。

兄と私は全く吸わないので、お姉さんの出る幕はなし。

すごすごと引きあげて行きました。

そこから、テーブルでタバコ談義が始まったのです。


「そういえば、昔の映画って何かと言えばタバコを吸ってたよな」

「小津安二郎の映画なんかもそうじゃなかった?」

「いまは路上でタバコを吸えないところも多いしなあ」

「神奈川じゃ居酒屋も禁煙か分煙を迫られているらしいよ」


そう、タバコをめぐる環境は劇的に変わりました。

かつて、テレビCMの主役の一つがタバコ。

1980年代半ばだったと思うのですが、

「Speak Lark!」というセリフでおなじみのタバコCMがあり、

私の周りでもモノマネをしている同級生がいたほどです。


それが、タバコCMが放送禁止になり、

会社ではガラス張りの妙なボックスの中でしか

喫煙が認められなくなりました。

時代とともに存在感が薄れた最たるものが

タバコでしょう。


そんなことを考えていて、私の頭にふと浮かんだのが

ラッキー・トンプソン(ss,ts)の作品「ラッキー・ストライクス」でした。

このジャケット・デザインはタバコの「ラッキー・ストライク」を

パクッたものです。

作品が発表された1960年代では、誰もが「ああ、シャレね」と

ニンマリしたに違いありません。

しかし、もう少し時が経てば、これがタバコのパッケージを

ベースにしていることすら分からない人が

多数派になるのではないでしょうか?


それはそれで時代の流れですが、

ラッキー・トンプソンも忘れられてしまうと、

非常にもったいない気がします。

彼は1940年代から活躍したサックス奏者で、

カウント・ベイシー、チャーリー・パーカー、

マイルス・デイヴィスといった超大物との共演を重ねています。

その力量は買われていたはずなのですが、

常に脇役的な存在で、商業的にも大きな成功を

収めることはありませんでした。

気負わない、スムーズな演奏がもう一つインパクトに

欠けたのでしょう。

それでも、その温かいサウンドはクセになってしまうほど

魅力的なものです。

ブルー・ノートといった良心的なレーベルでプロデュースされていれば、

特に日本で高い知名度を得ていたことは間違いありません。

惜しい。


それでは、トンプソンが名手と組んだ作品を聴いてみましょう。

1964年9月15日、NYでの録音。


Lucky Thompson(ss,ts)

Hank Jones(p)

Richard Davis(b)

Connie Kay(ds)


①In A Sentimental Mood

おなじみ、エリントンの名曲。

もし「ソプラノ・サックスの愛すべきジャズ演奏ランキング」

なるものがあったら、ぜひ上位に入れたいトラックです。

ハンク・ジョーンズの美しいイントロに導かれて

ゆっくりメロディを吹くトンプソン。

非常に控えめでありながら、親密なムードが漂います。

音色は「細い」のですが、

それだけに「センチになった」時の気持ちが

率直に届いてきます。

ここまで抑制されていながら「伝わる」演奏はそうないでしょう。

続くハンク・ジョーンズのソロも素晴らしい。

音数は限られていますが、エレガントで優しさのこもったプレイ。

これを受けて、トンプソンが再び登場。

力を過剰に入れることなく、あくまで穏やかに吹ききります。

バラッドが一曲目というのは珍しいですが、

聴くと十分納得できます。


④Reminiscent

こちらは非常にリラックスした佳品。

トンプソンはテナーを吹いていますが、

そのサウンドは非常に軽やかです。

1964年という時代なのに、これでいいの?

と思ってしまうぐらい、自然体のゆったりしたテナー。

聴くとすっかり安心してしまう、

「なごみのテナー」です。


⑥I Forgot To Remember

これも素晴らしいバラッド。

テナーで淡々とメロディが紡がれていきます。

ソロに入ってからも、仙人か?と思うぐらいに過剰さを排した

演奏をするトンプソン。

しかし、ソロ後半では、静かながら彼の情熱が

垣間見えるフレーズが顔を出します。

底流にある「熱さ」をそのまま出さないで表現する、

大人の美学があるプレイです。


⑧Invitation

数々の名演を生みだしているスタンダード・ナンバー。

トンプソンはラテンのリズムを取り入れることで、

独特の味わいを出すことに成功しています。

コニー・ケイの正確なリズムに乗って、

するするとフレーズを紡ぎだすトンプソン。

他のトラックと比べて、エモーショナルなフレーズが多く、

トンプソンも好きな曲だったのでは?と想像します。

ハンク・ジョーンズがここでも名手ぶりを披露していて、

闇の中で光るような美しいフレーズを弾いています。


いやはや、ジャケットに見られるような「シャレ」には

収まりきらない快作です。

これはやはり「ラッキー・ストライク」ではなく、

複数形の「ラッキー・ストライク」なのです。


さて、タバコ談義を終えた私たちは、

ライブハウス「スローボート」へ向かったのですが、

そこでの福居良さん(p)の演奏については

またの機会に書きたいと思います。

こちらも熱演でした。乞うご期待!