スタン・ゲッツ・プレイズ | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


久しぶりにものすごいインパクトがある

映像を見てしまいました。


多くの方が見たことでしょう、バンクーバー五輪の

女子フィギュアスケート。

浅田真央選手が銀メダル、

キム・ヨナ選手が金メダルを獲得しました。

私の職場でも、彼女たちの演技が行われていた間は

静まり返り、誰もがテレビに注目していました。

本当に電話も鳴らなかったのです(笑)。

全ての人が、「世紀の名勝負」に注目していました。


ただ、私が「ものすごい映像だ」と思ったのは演技ではありません。

演技後の浅田選手のインタビューです。

彼女はこう語りました。


「長かったと思ったんですけど、でも本当に

 あっという間に終わってしまいました」


私はこの言葉を聞いたとき、一瞬、「ん?」と思いました。

文字にしてしまうと、全く矛盾しているからです。

しかし、彼女の泣きながらのインタビューを見て、

その意味を少しだけ理解しました。

わずか4分間の演技の中で、

彼女は最高の水準を達成するため、

ものすごく多くのことを考えていたのでしょう。

その一方で、長期にわたる肉体的な訓練を経て、

本能的に体を動かしていた部分もあると思います。

「頭脳」は濃密な長い長い時間を過ごす一方、

「肉体」は反射的に短い時間で動くという点で、

とても難しい体験をしたに違いありません。


限界まで自分を追い詰めるアスリート。

その凄さを改めて実感すると共に、

とてつもない時間を経験してしまった19歳が

これからどんな人生を歩むのか。

考えるだけでも気が遠くなってしまうのでした。


全く異質なものを同列にしてしまってはいけないと思いつつ、

私は「短いけれどとても長い」、ある演奏のことを思い出しました。

テナー・サックスのスタン・ゲッツが残した「星影のステラ」。

こちらはわずか2分41秒という短い時間ながら、

全くスキのないプレイをしています。

演奏時間がもっともっと長く感じられるほど。

そこには、この傑出したプレイヤーの集中力と本能が

込められているような気がします。


1952年、12月12日と29日、NYでの録音。


Stan Getz(ts)

Jimmy Raney(g)

Duke Jordan(p)

Bill Crow(b)

Frank Isola(ds)


①Stella By Starlight

マイルス・デイヴィスも取り上げた、超有名スタンダード。

この演奏の良さは「肩の凝らない深さ」にあります。

ピアノのイントロに導かれて入ってくるゲッツの音色は

クールでありながらかすかに濡れている。

「ベタつかなく、リリカルな」ジャズを求めるファンにはたまりません。

ミディアム・テンポでメロディをふくよかに吹いた後、

ゲッツは余韻を残しつつ、鮮やかなソロに入っていきます。

これがメロディの「いいとこどり」をして、

巧みにフレーズに取り入れているかのよう。

その連続性と、「揺れながらスイングする」

あまりのうまさに息をのみます。

しかも、こうした言葉が全く不要なほど、ソロは簡明で

誰にでもその魅力が分かるようなものなのです。

芸術性と大衆的な親しみやすさを兼ね備えた

ゲッツの演奏に圧倒されます!


そういえば、フィギュアスケートも「芸術性と大衆性」を

絶妙にブレンドさせた場合、成功するような気がしますね。

それがごく一部の人にしかできていないことを思うと、

難しいことなんだろうなあと思うのですが・・・・

「超一流とは何か」を教えてくれたという点では、

今回のフィギュアスケートは大成功だったのでしょう。