ランデブー/渡辺貞夫 | スロウ・ボートのジャズ日誌

スロウ・ボートのジャズ日誌

ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。


松井秀喜選手がワールドシリーズMVPを

取りましたね。

昨日のニュースでもNYのパレードで大歓声を受ける

松井選手の様子が取り上げられていました。


今回、彼の活躍は素晴らしく、

ヤンキース優勝の立役者としてMVPは当然、

という報道が大勢です。

でも、私はこのMVPには報道されている以上の

価値があると思うのです。


何せ、ヤンキースにはアメリカの野球ファンにとって

神様みたいな選手がずらり。

内野手のデレク・ジーターは人望もあって

国民的英雄ですし、

ワールドシリーズで活躍した守護神マリアノ・リベラも

大変な人気があります。

彼は40歳で、こうした好機がもう一度来るかは

微妙なところでしょう。

長年のヤンキースファンなら、

「ぜひ彼にMVPを!」と思ってもおかしくありません。


そうした中、日本からやってきて、

入団からわずか7年の松井がMVPを取ったのは、

なかなか意味があることです。

業績を上げたものには、外国人であろうが、

チームの在籍年数が少なかろうが、

それに応じた敬意を示す。

アメリカのフェアな側面が表れた例と

言っていいのではないでしょうか。


ジャズでは、本場アメリカで日本人が成功をおさめ、

それなりの評価を受けるのに、

ずいぶん時間がかかりました。

どこで読んだかは忘れてしまいましたが、

山下洋輔さん(p)は

「日本人にブルースが分かるのか?」と

言われたそうです。


商業的に最初に大きな成功を収めたのは

やはりこの人、渡辺貞夫さん(as)でしょう。

1984年に吹きこまれた「ランデブー」は

ビルボードの全米ジャズチャートで2位になりました。

私は当時高校生でしたが、

この快挙には胸が躍ったのを覚えています。


しかし、一部の日本の批評家からは疑問の声もありました。

「グローヴァー・ワシントン・ジュニア

 (当時人気だったサックス奏者)の真似っぽい」とか、

「プロデューサーのラルフ・マクドナルドの色が強すぎる、

これはナベサダのサウンドなのか?」と。


確かに、プロデューサーの音楽観が

色濃く出ているのは否めません。

内容も、いわゆる「スタンダード・ジャズ」ではなく、

当時勢いがあった「ソフトなフュージョン」です。

しかし、私はこのアルバムに

渡辺貞夫ならではの温かみと「歌」があると思います。

それがなければ、

いくらプロデューサーが優れていたとしても、

ここまでのヒットはなかったでしょう。

アメリカで日本人ジャズマンの実力が認められた例として、

「ランデブー」に耳を傾けてみましょう。


1984年 2~4月、NYでの録音。


渡辺貞夫(as)

Steve Gadd(ds)

Marcus Miller(b)

Richard Tee(Fender Rhodes)

Ralph MacDonald(per)

Eric Gale(g)

Anthony MacDonald(per)

Barry Eastmond(syn)

Roberta Flack(vo)


①Rendezvous

このアルバム全体を象徴する曲。

洗練されたメロディの柔らかさ、軽妙さが

都会での「幸せな出会い」を連想させます。

この曲のサウンドは実に緻密に設計されていて、

余分な音はまったくありません。

この時代の「フュージョン」がいかに充実していたかを

示す音作りです。

そんな中で、冒頭から2分過ぎで始まる

ナベサダのソロはなかなかの聴きもの。

きっちりしたリズム陣をバックに、

メロディックに吹いています。

よくよく聴くと、けっこう強い音や素早いパッセージを

交えているんですね。

フュージョンというスタイルを取りながらも、

本質はビ・バップという「ナベサダ流」のプレイを

堪能できます。


②Fire Fly

タイトルは「ホタル」を意味しています。

その名の通り、実にほんわかした曲。

メロディでのエリック・ゲイルのギターは、

彼の中でも特に「あったかい」いい味を出しています。

ナベサダのソロは実に「伸び伸び」。

おそらく、彼の音はパーカーやフィル・ウッズと比べると

少し「細い」のですが、

こうした繊細で優しい曲には実によくマッチします。

フュージョンでこれだけ柔和な表情が出た曲は

あまりないでしょう。

夏が終わりかけた海岸で聴いたりしたら、

旅情を誘われるでしょうねえ。


⑦Love Me As I Am

ナベサダ作曲の哀愁感あるバラッド。

メロディでのサックスの音色は、

リードの震えまでが伝わってくるような

繊細なもの。

曲調もある意味「日本的」というか、

ちょっと湿った情緒があります。

サックス・ソロも少ない音で

そろりそろりと進むかのよう。

こんな細やかなサウンドがアメリカで

受け入れられたというのも、

いま考えると不思議ですね。


このアルバムでのナベサダは、

当時の「オールスター」に囲まれてプレイしています。

ヤンキースの松井も同じような立場ですよね。

両者とも、すごい環境の中で臆することなく

自分の実力を発揮しているのは大したものです。

本当の一流というのは、大変な環境の中でも

自分を見失わないんだなあと感心してしまいました。