クリスマスが近づいてきました。
イルミネーションで飾られた街は高揚した雰囲気で、
「この季節が来た」ことを実感します。
クリスマス・アルバムをご紹介しようと思ったのですが、
なぜか棚から引っ張り出してしまったのがこの作品でした。
クリスマスとは関係ない、メル・トーメ(vo)のアルバム。
おそらく、ジャケットにあるブロードウェイの夜景が、
どこか今の街の風情と一致するからでしょう。
メル・トーメはフランク・シナトラの次に有名な男性ジャズ歌手。
非常に洗練され、柔らかいトーンを持っています。
それが、これまた洗練されたアレンジを得意とする
マーティー・ペイチの楽団と組んだのですから、
お洒落にならないわけがありません。
しかも、この作品では楽団とヴォーカルの
「丁々発止」が非常に多く、
あたかも会話しているかのような場面があります。
オリジナルのライナーを読むと、トーメはペイチに対し、
「Let the band play」と繰り返し言っていたそうです。
楽団に活躍の場を与え、自分がそこに加わろうという発想、
「俺が主役だ!」と考えているシンガーからは出てこないものです。
ライナーでも、トーメが自らの声を「楽器として」使っていることが
指摘されています。
1960年の録音。
熱心なジャズ・ファンにしか分からないかもしれませんが、
メンバーが豪華なので全て書いてみます。
Mel Torme(vo)
Marty Paich(p,arr)
Al Porcino(tp)
Stu Williamson(tp)
Frank Rosolino(tb)
Art Pepper(as)
Bill Perkins(ts)
Bill Hood(bs)
Vince De Rosa(frh)
Red Callender(tu)
Joe Mondragon(b)
Mel Lewis(ds)
ちなみに、タイトルにある「シューバート・アレイ」は
NYのブロードウェイにある劇場密集地帯の通りの名前。
ここに収められている曲は全てミュージカル・ナンバーです。
①Too Close For Comfort
ミュージカル「ミスター・ワンダフル」からの曲。
トーメとバンドの息が見事にあった冒頭を聴くだけで、
アルバム全体の成功が窺えます。
トーメのソフトで軽妙なヴォーカルが存分に楽しめる上に、
アート・ペッパー(as)の輝かしいソロが聴けるのですから
言うことはありません。
「出すぎず、しかしパンチがある」ホーンアレンジも素晴らしいです。
④On The Street Where You Live
おなじみ、「マイ・フェア・レディ」からの一曲です。
バンドが実によくスイングしています。
ホーン群がなだれ込んでくるイントロの後、
わずかなブレイクを挟んで軽やかに入ってくるトーメ。
この瞬間だけで幸せです。
全体を通じメル・ルイス(ds)の歯切れがいいドラムもグッド!
また、終盤ではバンドとトーメのスキャットによる楽しい
「コール・アンド・レスポンス」が聴けます。
⑨Old Devil Moon
「フィニアンの虹」からのナンバー。
これは、モダンなアレンジが勝利したトラックです。
冒頭のヴォーカルとトロンボーンのユニゾンは、
かなり大胆な試み。
その後のメロディーは、ストレートに歌われていますが、
バックのホーンは時に強いアクセントをつけたり、
またある時は心地よい流れを作ったりと、自在な変化を見せます。
マーティ・ペイチの才能が光っています。
⑫Lonely Town
「オン・ザ・タウン」からの一曲。
これはトーメの名唱が聴けるトラックです。
「ニューヨークは寂しい街 誰もが忙しく通り過ぎるだけ
愛を見つけられなれば ここはずっと寂しい場所・・・・」
歌詞の概要はこんな感じで、それほど特別なものではありません。
しかし、冒頭、トーメが「New York, New York・・・・」と
伸びやかに呼びかけるだけで、空気が変わります。
都市に住む者の悲哀が立ち現れ、ぐっとくるのです。
この表現力、恐るべし。
聴きなおしてみると、この作品、クリスマスの華やいだ雰囲気にも
合う気がしてきました。
今年はこれを我が家の「クリスマス・コレクション」に加えてみます。
皆さんはどんなものをこの時期に聴きますか?
