ちょうど1年ほど前になる2007年の12月23日、
ジャズ界の巨星オスカー・ピーターソン(p)が亡くなりました。
82歳でした。
1940年代から活躍し続け、その強烈なスイングと流れるようなソロで
長きにわたってファンを惹き付けてやまない人でした。
私を中学生時代からジャズに引きずり込んだミュージシャンは
クリフォード・ブラウン(tp)、ビル・エヴァンス(p)、ソニー・ロリンズ(ts)
などでしたが、その中の一人にオスカーがいました。
オスカーの場合は、その圧倒的なテクニックもさることながら、
全体的に温かい「歌心」が感じられ、中学生すら感動してしまったのです。
私が初めて聴いた作品が、この「カナディアン・スイート」。
オスカーが自分の故国であるカナダを、全曲書き下ろしのオリジナルで
描写するという意欲作です。
彼は故国を相当愛していたらしく、アメリカが活動の拠点でありながら、
カナダに住んでいました。
トリオのメンバーであるレイ・ブラウン(b)、エド・シグペン(ds)を
トロントに住ませたこともあるそうです。
本作はテーマ性が高いという点では、オスカーの中でも異色かもしれません。
国の東部(大西洋岸ですね)を描いた作品に始まり、
最後は太平洋側のロッキー山脈までたどり着きます。
雄大な自然がある国らしく、曲調は都市を描いたものであっても
どこか鷹揚で、余裕が感じられます。
ジャズを聴いたことがないという方にも
親しみやすい内容ではないかと思います。
1965年の録音。メンバーは「黄金のトリオ」。
Oscar Peterson(p)
Ray Brown(b)
Ed Thigpen(ds)
①Ballad To The East
「赤毛のアン」で知られるプリンス・エドワード島など、
大西洋沿岸地域を描いた曲。
オスカー自身は
「この地方を心に描くとき、いつも青があった」(ライナーより)
と話しています。
その青は海の色か、空の色なのか・・・・
冒頭から、非常に穏やかなトーンで曲は始まり、
平和で雄大な土地のイメージが広がります。
オスカーのプレイは早弾きをぐっと抑え、
可憐なものに終始しています。
バラッドからアルバムを始めたのは、
「平和な故国への賛歌」を
穏やかな曲で飾りたかったからではないでしょうか。
②Laurentide Waltz
ケベック州モントリオール近郊にあるローレンシアン高原を描いたワルツ。
オスカーはよくここにスキーに行っていたそうで、冬景色を想像して
作曲したようです。
これもどこか雄大さを持ったワルツで、
メロディーは愛くるしいのに、ピアノの歌い方には力強さがあります。
ソロに入ると、オスカーらしいすばしこいフレーズが次々に出てきます。
けっこう飛ばし気味のところもあるのですが、
そこをレイ・ブラウンがワルツのリズムできっちりと押さえている。
やはり、並みのトリオではありません。
⑤Blues Of The Prairies
ここからカナダ西部に入ります。
プレーリー・・・・確か昔、学校で習ったような・・・。
温帯の草原地帯で、小麦やとうもろこしがとれる肥沃なところだそうです。
オスカーはその夕暮れの風景をイメージしました。
低音の「重し」が利いたメロディーから、ピアノ・ソロに入ります。
ここでは彼らしい、ブルース・フィーリングたっぷりで、
重量感とスピード感を兼ね備えた演奏が聴けます。
⑥Wheatland
「小麦の国」ーおそらくカナダのこと、
地平線まで続くような小麦畑があるのでしょう。
この曲を聴くと、風に揺れる小麦の穂を思い浮かべること間違いなし。
それだけ、ゆったりとした広がりを持つメロディーなのです。
オスカー自身もこの曲を気に入っていたらしく、
私が2004年に札幌で聴いたコンサートでも演奏していました。
ソロも実にチャーミングで、一音一音がしっかりと輝きながら、
コロコロと転がされているようです。
⑧Land Of The Misty Giants
とうとうロッキー山脈まで来ました。
オスカーはこの山脈の「威圧的でありながら品位がある」様子を描こうとしました。
それが見事に結実したバラッドです。
岩肌むき出しで、人を容易には受け入れないような厳しさを持つ山々。
しかし、その凛とした風情が人に勇気を与えたり、
何か澄んだ気持をもたらしてくれる。
そんな自然への畏敬が表れている演奏なのです。
最初の一音から濁りがなく、すがすがしいピアノの音色が続きます。
故国への愛情を素晴らしい音楽にまとめあげたオスカー。
いま聴いても、その音楽は新鮮に響きます。
小曽根真さん(p)をはじめ、オスカーの信奉者は多いですが、
その「音楽力」を改めて認識すると、それもむべなるかな、という感じです。
スイングするピアニストにとって、オスカーの存在感は
今後も大きなものであり続けるでしょう。
彼が参加している作品については、また日を改めて書いてみたいと思います。
