メリー・オールド・ソウル/ヴィクター・フェルドマン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Merry Olde Soul


いろんな世界に「早熟の天才」がいます。

最近だとゴルフの石川遼くんが当てはまるでしょうか。

17歳であのプレイ、すごいですよね。

実はジャズ界にも「早熟の天才」、数多くいます。

きょうはその中の一人、ヴィクター・フェルドマン(p、vib)を

取り上げてみましょう。


フェルドマンは1934年、ロンドンの生まれです。

7歳のときには聴衆の前でドラムを披露する腕前を持っており、

9歳の時にピアノを始めています。

10歳のときにはグレン・ミラー楽団にゲスト参加、

14歳の時にバイブラフォンを始める、など

およそ常人では考えられない経歴を持っています。

アメリカには1955年に渡り、

ここでもドラム、バイブ、ピアノそれぞれで活躍するという

器用さを発揮しました。


しかし、彼の代表作を挙げてみて、と言われると難しい。

その器用さのためか、彼はいろんなところで才能を小出しに使ってしまい、

なかなか「この一作」というのが見当たらないのです。

実は、ジャズファンの中ではマイルス・デイヴィスのリーダー作

↓「セブン・ステップス・トゥ・ヘブン」(1963年録音)


Seven Steps To Heaven


ここでの参加が一番よく知られているかもしれません。


聴いてみると、彼とマイルス、非常に相性がいいことに気が付きます。

ハードバップから脱却し、空間を生かした演奏へと進んでいるマイルスと、

縦型ではなく、横への音の広げ方がうまいフェルドマン。

しかも、フェルドマンのどこかポップなサウンドが、

後のハービー・ハンコック(p)に通じるところもあります。

マイルスとフェルドマンの組み合わせがもっと長く続いていたら

どんなサウンドになったか、想像したくなるのです。


ただ、今回はフェルドマンが主役なので、

彼のリーダー作をご紹介しましょう。

スタンダードな4ビート作品でありながら、彼のポップなセンスが光る

「Merry Olde Soul」(1960~61年録音)です。


まず、メンバー構成がフェルドマンらしい。


Victor Feldman(p,vib)

Hank Jones(p)

Sam Jones(b)

Andy Simpkins(b)※1曲のみ参加

Louis Hayes(ds)


バイブラフォンのみを担当しているトラックがあるとはいえ、

自分以外のピアニストを入れているという構成が異色です。

しかし、聴いていくとピアノに自信がなかったわけではなく、

サウンドの設計上、ハンクを入れたことがよく分かります。

プレイヤーとしてだけでなく、プロデューサー的な視点も持っていたようです。


①For Dancers Only

フェルドマン、サム・ジョーンズ、ルイス・ヘイズのトリオによる演奏。

フェルドマンはここではピアノに専念。

オリジナル・ライナーでアイラ・ギトラーがコードの使い方に

レッド・ガーランド(p)の影響を指摘しています。

確かにそうした面は見られますが、フェルドマンはよりポップに

跳ねるような演奏をしています。

その軽やかさが彼のスタイルとなっています。


②Lisa

フェルドマン(vib)、ハンク・ジョーンズ(p)、

あとは①と同様のリズムセクションでの演奏。

マイナームードの曲ですが、

メロディーを奏でるフェルドマンのバイブに軽さとスピード感があり、

いま聴いても非常に新鮮に感じられます。

ハンクの正統的なピアノソロの後、フェルドマンのソロが続きます。

やはりスピードと清新さがあるもので、

彼がこの分野でも独自のものを持っていたことを印象付けます。


③Serenity

①と同じ編成でのピアノトリオ。

ここでのフェルドマンは①のややブルージーなものとは全く違う

表現を見せます。

どちらかと言えばリリカルな、ビル・エヴァンス(p)的なアプローチで、

このことはギトラーもライナーで指摘しています。

おそらくは録音時に近い時点で身につけた弾き方なのでしょうが、

そんなことは思わせない見事なプレイ。

やはり器用なのでしょうね。


⑤Come Sunday

②と同じカルテット。作曲はデューク・エリントン。

フェルドマンのバイブが全編通して演奏される2分15秒の短い演奏です。

ハンク・ジョーンズがバックだけという、もったいない使い方ですが、

全体を聴いてみると、これが実によく生きている。

スローなテンポで音数を抑えたバイブが続きますが、

そのバックで音がぶつからないように、

最小限のアクセントをつけるハンクが素晴らしい。

ハンクのセンスもあるのでしょうが、

フェルドマンのサウンド設計で完成された

トラックであることは間違いありません。


全体を通して佳作と言える出来ですが、

リーダーの新しいポップ感は一貫しており、そこが魅力となっています。


フェルドマンは後年、ロック・ミュージシャンとも

ピアノやキーボード、パーカッションで共演しています。

私が「おや?」と思ったのは、緻密な音作りで知られるグループ、

スティーリー・ダンのアルバムへの参加です。

↓1977年に発表された「Aja」


Aja


ここでは「Black Cow」「I got the News」などで

印象的なピアノを弾いています。


どんな土俵にあっても自己表現できてしまう「早熟の天才」

ヴィクター・フェルドマン。

ただ、やはりその才能が拡散してしまったことが

自己の「大傑作」を生み出せなかった要因でしょうか。