いろんな世界に「早熟の天才」がいます。
最近だとゴルフの石川遼くんが当てはまるでしょうか。
17歳であのプレイ、すごいですよね。
実はジャズ界にも「早熟の天才」、数多くいます。
きょうはその中の一人、ヴィクター・フェルドマン(p、vib)を
取り上げてみましょう。
フェルドマンは1934年、ロンドンの生まれです。
7歳のときには聴衆の前でドラムを披露する腕前を持っており、
9歳の時にピアノを始めています。
10歳のときにはグレン・ミラー楽団にゲスト参加、
14歳の時にバイブラフォンを始める、など
およそ常人では考えられない経歴を持っています。
アメリカには1955年に渡り、
ここでもドラム、バイブ、ピアノそれぞれで活躍するという
器用さを発揮しました。
しかし、彼の代表作を挙げてみて、と言われると難しい。
その器用さのためか、彼はいろんなところで才能を小出しに使ってしまい、
なかなか「この一作」というのが見当たらないのです。
実は、ジャズファンの中ではマイルス・デイヴィスのリーダー作
↓「セブン・ステップス・トゥ・ヘブン」(1963年録音)
ここでの参加が一番よく知られているかもしれません。
聴いてみると、彼とマイルス、非常に相性がいいことに気が付きます。
ハードバップから脱却し、空間を生かした演奏へと進んでいるマイルスと、
縦型ではなく、横への音の広げ方がうまいフェルドマン。
しかも、フェルドマンのどこかポップなサウンドが、
後のハービー・ハンコック(p)に通じるところもあります。
マイルスとフェルドマンの組み合わせがもっと長く続いていたら
どんなサウンドになったか、想像したくなるのです。
ただ、今回はフェルドマンが主役なので、
彼のリーダー作をご紹介しましょう。
スタンダードな4ビート作品でありながら、彼のポップなセンスが光る
「Merry Olde Soul」(1960~61年録音)です。
まず、メンバー構成がフェルドマンらしい。
Victor Feldman(p,vib)
Hank Jones(p)
Sam Jones(b)
Andy Simpkins(b)※1曲のみ参加
Louis Hayes(ds)
バイブラフォンのみを担当しているトラックがあるとはいえ、
自分以外のピアニストを入れているという構成が異色です。
しかし、聴いていくとピアノに自信がなかったわけではなく、
サウンドの設計上、ハンクを入れたことがよく分かります。
プレイヤーとしてだけでなく、プロデューサー的な視点も持っていたようです。
①For Dancers Only
フェルドマン、サム・ジョーンズ、ルイス・ヘイズのトリオによる演奏。
フェルドマンはここではピアノに専念。
オリジナル・ライナーでアイラ・ギトラーがコードの使い方に
レッド・ガーランド(p)の影響を指摘しています。
確かにそうした面は見られますが、フェルドマンはよりポップに
跳ねるような演奏をしています。
その軽やかさが彼のスタイルとなっています。
②Lisa
フェルドマン(vib)、ハンク・ジョーンズ(p)、
あとは①と同様のリズムセクションでの演奏。
マイナームードの曲ですが、
メロディーを奏でるフェルドマンのバイブに軽さとスピード感があり、
いま聴いても非常に新鮮に感じられます。
ハンクの正統的なピアノソロの後、フェルドマンのソロが続きます。
やはりスピードと清新さがあるもので、
彼がこの分野でも独自のものを持っていたことを印象付けます。
③Serenity
①と同じ編成でのピアノトリオ。
ここでのフェルドマンは①のややブルージーなものとは全く違う
表現を見せます。
どちらかと言えばリリカルな、ビル・エヴァンス(p)的なアプローチで、
このことはギトラーもライナーで指摘しています。
おそらくは録音時に近い時点で身につけた弾き方なのでしょうが、
そんなことは思わせない見事なプレイ。
やはり器用なのでしょうね。
⑤Come Sunday
②と同じカルテット。作曲はデューク・エリントン。
フェルドマンのバイブが全編通して演奏される2分15秒の短い演奏です。
ハンク・ジョーンズがバックだけという、もったいない使い方ですが、
全体を聴いてみると、これが実によく生きている。
スローなテンポで音数を抑えたバイブが続きますが、
そのバックで音がぶつからないように、
最小限のアクセントをつけるハンクが素晴らしい。
ハンクのセンスもあるのでしょうが、
フェルドマンのサウンド設計で完成された
トラックであることは間違いありません。
全体を通して佳作と言える出来ですが、
リーダーの新しいポップ感は一貫しており、そこが魅力となっています。
フェルドマンは後年、ロック・ミュージシャンとも
ピアノやキーボード、パーカッションで共演しています。
私が「おや?」と思ったのは、緻密な音作りで知られるグループ、
スティーリー・ダンのアルバムへの参加です。
↓1977年に発表された「Aja」
ここでは「Black Cow」「I got the News」などで
印象的なピアノを弾いています。
どんな土俵にあっても自己表現できてしまう「早熟の天才」
ヴィクター・フェルドマン。
ただ、やはりその才能が拡散してしまったことが
自己の「大傑作」を生み出せなかった要因でしょうか。


