俳優の世界には名脇役 、という人がいます。
主役を張らなくても、どこか忘れがたい印象を残す人。
ブルー・ミッチェル(tp)はジャズ界における名脇役と言っていいでしょう。
ご紹介する本作をはじめ、彼がリーダーとなった作品がそこそこあるので、
「主役」となってはいるのですが、正直、インパクトはそれほど強くない。
でも、時々「ああ、こんな人いたな」と思い出して聴く、
それがミッチェルとの正しい付き合い方のような気がします。
私の手元にあるデータでは、ミッチェルは1930年、
フロリダ州のマイアミ生まれ。
そんな温暖な場所で生まれたとは思えない、
渋く、いぶし銀的な演奏が彼の持ち味です。
この作品は1965年の録音。
ジャケットもリード・マイルスのデザインにしてはいまいち。
一曲目のタイトルが「ハイヒール・スニーカーズ」。
曲名と時代背景を考えれば、ジャズ・ロック的なアプローチが
されていることはすぐに分ります。
ミッチェルに似合わないよなぁ・・・・
買うか買うまいか迷うところですが、決め手となった点が
二つありました。
一つは日野皓正が作曲した「アローン・アローン・アンド・アローン」が
入っていること。
もう一つは、当時まだ新人だったチック・コリア(p)の参加です。
曲に入る前に、メンバーのご紹介。
Blue Mitchell(tp)
Junior Cook(ts)
Chick Corea(p)
Gene Taylor(b)
Al Foster(ds)
この当時、アル・フォスター(ds)も新人でした。
③Alone, Alone, and Alone
日野皓正のこの曲を、ミッチェルは1965年に来日した時に
聴いたそうです。
それも、日野本人の演奏で耳にし、いたく気に入ったとのこと。
これだけでもいい話なのですが、
その曲を彼が愛おしげに、ストレートに吹いているのが感動的です。
メロディーのバックでクックがアクセントをつけていますが、
このアレンジはリー・モーガン(tp)による
「アイ・リメンバー・クリフォード」を彷彿させます。
最初のソロは意外にもクック。
ここでの彼は、ペースを上げずに、情感豊かに歌います。
彼のバラッドプレイの中でも最上の出来に入るでしょう。
続くチックのピアノソロは、新人離れした構成力。
曲の雰囲気を大切にしながらも、すばしこくフレーズを紡ぎ出す様子は、
後年にもつながるセンスの良さを感じさせます。
そして、ミッチェルのソロ。
メロディーから派生したフレーズをちりばめる、
彼らしい渋みのある演奏。
聴き終わったとき、やはりミッチェルはこの曲を演奏したくて
たまらなかったのがよく分ります。
65年のはじめに日野の演奏を聴き、6月にはレコーディングしているという
事実もそのことを示しています。
もう一つ、「拾いもの」とも言える曲があります。
②Perception
ミッチェルとコリアの共作です。
ラテン調のリズムに哀感あふれるメロディーが乗っています。
こうなるとミッチェルの音数の多くないソロがぴたりとはまり、
えもいわれぬ悲しさが漂います。
これに対してコリアのピアノは清冽な水の流れのようで、
何ともフレッシュ。
この対比が面白いのと、ミッチェルが自分とは明らかにタイプの違う
若者を高く評価していたことが窺われ、うれしくなります。
「名脇役」が自分のスタイルをほぼ確立し、
余裕が出てきたため、若い弟子をとった。
弟子はやがて巣立ち、ジャズ界を揺るがす存在になるー
その前夜とも言うべきタイミングに生み出された、
さりげない佳作です。
