ナイト・アンド・ザ・シティ/チャーリー・ヘイデン&ケニー・バロン | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

Night and The City


このブログに書きたいけれど、どうしても言葉がついてこず、

なかなかご紹介できなかったのがピアニスト、ケニー・バロン。

きょうは意を決して書いてみましょう。


バロンの音楽を表現しにくいのは、正直、分りやすい個性がないからです。

聞き流してしまえば、「なんか雰囲気がいいね」で片づけられかねない、

落ち着いた、品の良いピアノを弾く人です。

しかし、よくよく聴いてみると、ただの上品なピアノでは終わらない、

とんでもない冒険をしようとしている人であることが分ります。

一言で表現すると、「無駄な音を限界まで省こうとする執念」

といったところでしょうか。


今回ご紹介するチャーリー・ヘイデン(b)とのデュオ「ナイト・アンド・ザ・シティ」。

1996年、ニューヨークでのライブです。

これは、バロンの求めてきた路線が実を結んだ傑作と言えるでしょう。


この作品、全体構成からして掟破りです。

何しろ、収録された7曲全てがスロー・テンポなのです。

私がプロデューサーであれば、「リスナーが飽きてしまう」と考えて、

絶対にこんな無謀なことはしないでしょう。

しかし、バロン自身も、プロデューサーを兼務したチャーリー・ヘイデンにも、

「絶対にいける!」という自信があったのだと思います。

実際、どのトラックも完成度が高く、聴くうちにどんどん引き込まれていきます。

そこに大きく貢献しているのが、バロンの説得力ある一音一音です。


①トワイライト・ソング

この作品を代表する一曲です。

闇夜に浮遊する妖しい光を思わせるピアノのイントロ。

一瞬、ただならぬ世界が始まるのではないかと身構えるのですが、

その後に続く穏やかなメロディーは、まさにトワイライト。

夜明けというよりは、都会の日没後の薄明りを想像させる

洗練された世界が展開されていきます。

ソロに入ってからは、バロンの右手が繰り出すフレーズが

実によく響いてきます。

まず、音数がかなり少ない。

時に一つ一つの音を置くようにしたり、

流れるようにつないでみたりするのですが、

決して単調にならないように、絶妙なところで「溜め」を作るのです。

いま、この「溜め」ができるピアニストはそういません。

黒人でありながら、ブルース臭や粘着性はあまりない、

でも温かみが伝わってくる、素晴らしい演奏です。

ウィスキーなど傾けながら心地よく聴くのにもってこいのプレイですが、

やっていることはものすごく高度です。


④ボディ・アンド・ソウル

ピアノがメロディーを多少崩して始まるこの曲。

そのアレンジが見事です。

最近、メロディーの「崩し」が「破壊」になるケースも多いのですが、

ここでは曲の雰囲気を大切にしながら、

自分のものとして料理してしまう、ベテランのうまさが光っています。

バロンのソロはこれまた音数が少ないものなのですが、

高音を効果的に使い、きらめくようなフレーズを重ねていきます。

途中、テンポを少しだけ上げて、うねるようなフレーズを作りますが、

これも突っ走らずに、最後は音数を減らして

静かな緊張感を保ったまま終わっていく。

ライブとは思えないストイックさです。


どのトラックも「最小限の音で最大限の効果を出す」ことに成功しています。

バロンはこの手法をどうやって編み出したのか?

カウント・ベイシー(p)を参考にしたのでしょうか?

彼も少ない音でスイングする名人でしたが、

バロンの場合は、これに格調高さまでが加わっているような感じがします。


非常に正統的なスタイルながら、一音一音にこだわりぬく「過激さ」-

それがバロンの個性と言えそうです。


追記:画家のジョージア・オキーフが大好きな私としては、彼女の絵が

    ジャケットに使われていることが非常にうれしい。

    音楽内容ともぴったりです。