このブログに書きたいけれど、どうしても言葉がついてこず、
なかなかご紹介できなかったのがピアニスト、ケニー・バロン。
きょうは意を決して書いてみましょう。
バロンの音楽を表現しにくいのは、正直、分りやすい個性がないからです。
聞き流してしまえば、「なんか雰囲気がいいね」で片づけられかねない、
落ち着いた、品の良いピアノを弾く人です。
しかし、よくよく聴いてみると、ただの上品なピアノでは終わらない、
とんでもない冒険をしようとしている人であることが分ります。
一言で表現すると、「無駄な音を限界まで省こうとする執念」
といったところでしょうか。
今回ご紹介するチャーリー・ヘイデン(b)とのデュオ「ナイト・アンド・ザ・シティ」。
1996年、ニューヨークでのライブです。
これは、バロンの求めてきた路線が実を結んだ傑作と言えるでしょう。
この作品、全体構成からして掟破りです。
何しろ、収録された7曲全てがスロー・テンポなのです。
私がプロデューサーであれば、「リスナーが飽きてしまう」と考えて、
絶対にこんな無謀なことはしないでしょう。
しかし、バロン自身も、プロデューサーを兼務したチャーリー・ヘイデンにも、
「絶対にいける!」という自信があったのだと思います。
実際、どのトラックも完成度が高く、聴くうちにどんどん引き込まれていきます。
そこに大きく貢献しているのが、バロンの説得力ある一音一音です。
①トワイライト・ソング
この作品を代表する一曲です。
闇夜に浮遊する妖しい光を思わせるピアノのイントロ。
一瞬、ただならぬ世界が始まるのではないかと身構えるのですが、
その後に続く穏やかなメロディーは、まさにトワイライト。
夜明けというよりは、都会の日没後の薄明りを想像させる
洗練された世界が展開されていきます。
ソロに入ってからは、バロンの右手が繰り出すフレーズが
実によく響いてきます。
まず、音数がかなり少ない。
時に一つ一つの音を置くようにしたり、
流れるようにつないでみたりするのですが、
決して単調にならないように、絶妙なところで「溜め」を作るのです。
いま、この「溜め」ができるピアニストはそういません。
黒人でありながら、ブルース臭や粘着性はあまりない、
でも温かみが伝わってくる、素晴らしい演奏です。
ウィスキーなど傾けながら心地よく聴くのにもってこいのプレイですが、
やっていることはものすごく高度です。
④ボディ・アンド・ソウル
ピアノがメロディーを多少崩して始まるこの曲。
そのアレンジが見事です。
最近、メロディーの「崩し」が「破壊」になるケースも多いのですが、
ここでは曲の雰囲気を大切にしながら、
自分のものとして料理してしまう、ベテランのうまさが光っています。
バロンのソロはこれまた音数が少ないものなのですが、
高音を効果的に使い、きらめくようなフレーズを重ねていきます。
途中、テンポを少しだけ上げて、うねるようなフレーズを作りますが、
これも突っ走らずに、最後は音数を減らして
静かな緊張感を保ったまま終わっていく。
ライブとは思えないストイックさです。
どのトラックも「最小限の音で最大限の効果を出す」ことに成功しています。
バロンはこの手法をどうやって編み出したのか?
カウント・ベイシー(p)を参考にしたのでしょうか?
彼も少ない音でスイングする名人でしたが、
バロンの場合は、これに格調高さまでが加わっているような感じがします。
非常に正統的なスタイルながら、一音一音にこだわりぬく「過激さ」-
それがバロンの個性と言えそうです。
追記:画家のジョージア・オキーフが大好きな私としては、彼女の絵が
ジャケットに使われていることが非常にうれしい。
音楽内容ともぴったりです。
