ジャズを聴いていて、時に戸惑ってしまうことがあります。
メンバーや録音日時がバラバラで、
「このアルバムは何の目的で作られたの?」と、
理解に苦しむ作品に出会う時があるのです。
答えは簡単、録音した数あるセッションの中から、
レコード会社が適当に選んでアルバムに仕上げてしまった
「寄せ集め作品」というものがあるからです。
企画倒れで終わってしまうことが多いこうした作品から、
ごくたまにですが、名作が生まれることがあります。
アート・ペッパー(as)のこのアルバムは、
いわゆる「未発表作品集」の傑作と言えるでしょう。
1950年代の後半から60年にかけて録音されたテイクを集めたこの作品、
私が初めて聴いたのは吉祥寺のジャズ喫茶「A&F」でした。
今は閉店してしまったこのお店、スピーカーの前のスペースでは
私語が禁止されていた(!)というほどストイックなところでした。
私が行ったのが1990年代の後半でしたから、
「まだこんなジャズ喫茶があったのか!」と驚きました。
じっと耳を傾けていろいろなLPを聴いていく中で、
一番印象に残ったのがこの作品です。
アート・ペッパーの中で全く知らなかったアルバムであることに加え、
それぞれのテイクの完成度が高いことに感動しました。
おそらく、プロデュースしたレスター・ケーニッヒが厳選したのでしょう。
私が「A&F」で衝撃を受けた演奏が「ザ・マン・アイ・ラブ」です。
名作「ミーツ・ザ・リズム・セクション」での録音からこぼれたテイクだけに
完成度が高いのは当然なのですが、この演奏は本当に素晴らしい!
イントロのフィリー・ジョー(ds)のブラシ、
それに続く、やや図太いペッパーの音色。
このメロディーを聴いただけで幸せになれるのですが、
ソロになってもこの勢いは衰えません。
やや前のめり気味ながら正確なビートを刻むリズムに乗って、
ペッパーは実に思い切りよく歌っています。
しかも、このソロには無駄がない!
間の取り方が「空きすぎず、窮屈にもならない」絶妙なもので、
ペッパーのファンというわけではない私でも、
彼の才能に感服せざるを得ません。
レッド・ガーランド(p)に続き、ポール・チェンバース(b)の
弓を使ったソロがあります。
ここでも聴きものはフィリー・ジョー(ds)です。
ものすごくパンチのきいたブラシでチェンバースを煽りたて、
バンドに緊張感を与えています。
さらに続くドラムソロ~アルトソロへの流れも息がぴたりと合って見事。
「枯葉」など日本人好みの選曲もありますが、
私は「ザ・マン・アイ・ラブ」だけのためにこのアルバムを
聴き続けていくと思います。
窮屈ながら妙に密度の濃かった音空間である「ジャズ喫茶」への
感謝の気持ちも込めて。
