ザ・ウェイ・イット・ワズ/アート・ペッパー | スロウ・ボートのジャズ日誌

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ジャズを聴き始めて早30年以上。これまで集めてきた作品に改めて耳を傾け、レビューを書いていきたいと考えています。1人のファンとして、作品の歴史的な価値や話題性よりも、どれだけ「聴き応えがあるか」にこだわっていきます。

The Way It Was


ジャズを聴いていて、時に戸惑ってしまうことがあります。

メンバーや録音日時がバラバラで、

「このアルバムは何の目的で作られたの?」と、

理解に苦しむ作品に出会う時があるのです。


答えは簡単、録音した数あるセッションの中から、

レコード会社が適当に選んでアルバムに仕上げてしまった

「寄せ集め作品」というものがあるからです。

企画倒れで終わってしまうことが多いこうした作品から、

ごくたまにですが、名作が生まれることがあります。

アート・ペッパー(as)のこのアルバムは、

いわゆる「未発表作品集」の傑作と言えるでしょう。


1950年代の後半から60年にかけて録音されたテイクを集めたこの作品、

私が初めて聴いたのは吉祥寺のジャズ喫茶「A&F」でした。

今は閉店してしまったこのお店、スピーカーの前のスペースでは

私語が禁止されていた(!)というほどストイックなところでした。

私が行ったのが1990年代の後半でしたから、

「まだこんなジャズ喫茶があったのか!」と驚きました。

じっと耳を傾けていろいろなLPを聴いていく中で、

一番印象に残ったのがこの作品です。

アート・ペッパーの中で全く知らなかったアルバムであることに加え、

それぞれのテイクの完成度が高いことに感動しました。

おそらく、プロデュースしたレスター・ケーニッヒが厳選したのでしょう。


私が「A&F」で衝撃を受けた演奏が「ザ・マン・アイ・ラブ」です。

名作「ミーツ・ザ・リズム・セクション」での録音からこぼれたテイクだけに

完成度が高いのは当然なのですが、この演奏は本当に素晴らしい!


イントロのフィリー・ジョー(ds)のブラシ、

それに続く、やや図太いペッパーの音色。

このメロディーを聴いただけで幸せになれるのですが、

ソロになってもこの勢いは衰えません。

やや前のめり気味ながら正確なビートを刻むリズムに乗って、

ペッパーは実に思い切りよく歌っています。

しかも、このソロには無駄がない!

間の取り方が「空きすぎず、窮屈にもならない」絶妙なもので、

ペッパーのファンというわけではない私でも、

彼の才能に感服せざるを得ません。


レッド・ガーランド(p)に続き、ポール・チェンバース(b)の

弓を使ったソロがあります。

ここでも聴きものはフィリー・ジョー(ds)です。

ものすごくパンチのきいたブラシでチェンバースを煽りたて、

バンドに緊張感を与えています。

さらに続くドラムソロ~アルトソロへの流れも息がぴたりと合って見事。


「枯葉」など日本人好みの選曲もありますが、

私は「ザ・マン・アイ・ラブ」だけのためにこのアルバムを

聴き続けていくと思います。

窮屈ながら妙に密度の濃かった音空間である「ジャズ喫茶」への

感謝の気持ちも込めて。