彼の名は「エメラ」 | 真逆的な、あまりに真逆的な

真逆的な、あまりに真逆的な

 
「……つまりどういうこと?」がモットーのブログ

変人作家になりきって頭おかしい系の作品を世に垂れ流してます

くだらない詩、つまらない小説、しょうもないエッセイ

読めば読むほど人生を無駄にする、物好きのための精神安定剤

毎日朝6時に更新してます

 

一人の女子高生は大雨が気にならないほど泣いていた。

 

 

失恋の哀しみかはわからないが、海から這い出たかのように彼女はずぶ濡れだった。

 

 

通行人は声をかけようにも言葉が見つからなくて通り過ぎていく。

 

 

誰もが彼女に声をかけるヒーローが来てくれたらいいのにと思った。

 

 

「まだ泣いてるのかい?」

 

 

優しい声とともに緑色の光が彼女の真横に現れた。

 

 

驚いた様子で振り返る女子高生。

 

 

光の中には眼鏡をかけた青年がいた。

 

 

暴風と豪雨の中、この男はまったく雨に濡れていない。

 

 

不思議な光景に言葉を失ったのは通行人も一緒だった。

 

 

稲妻のように突如現れ、パチパチと光を放出している男を見てCGかドッキリを疑わざるを得なかった。

 

 

「その涙を幸せにするために来た」

 

 

自信に満ちた表情を見せた男。

 

 

真っ黒の空を見上げ、少し笑うと眩い閃光が弾けた。

 

 

曇天が緑色の稲妻に引き裂かれる。

 

 

そこから紺碧の空が顔を見せた。

 

 

一気に歓声が沸く。

 

 

虹を見た女子高生はその美しさにまた涙を流したが、微笑みを浮かべていた。

 

 

「いい表情してるよ」

 

 

宙に浮いた男は爽やかな笑顔を見せた。

 

 

そして大きな光とともに消えた。

 

 

通行人は何事もなかったように再び歩き出した。

 

 

何故、傘を差して立ち止まっていたのだろうと不思議な様子だった。

 

 

彼女は夢ではないかと思った。

 

 

しかし、涙の最後の一滴が地面に落ちた時、それがエメラルドの結晶に変わった。

 

 

夢ではなかった。

 

 

ありがとう。

 

 

彼女はエメラルドを大切に拾い、笑顔で歩き出した。