一人の女子高生は大雨が気にならないほど泣いていた。
失恋の哀しみかはわからないが、海から這い出たかのように彼女はずぶ濡れだった。
通行人は声をかけようにも言葉が見つからなくて通り過ぎていく。
誰もが彼女に声をかけるヒーローが来てくれたらいいのにと思った。
「まだ泣いてるのかい?」
優しい声とともに緑色の光が彼女の真横に現れた。
驚いた様子で振り返る女子高生。
光の中には眼鏡をかけた青年がいた。
暴風と豪雨の中、この男はまったく雨に濡れていない。
不思議な光景に言葉を失ったのは通行人も一緒だった。
稲妻のように突如現れ、パチパチと光を放出している男を見てCGかドッキリを疑わざるを得なかった。
「その涙を幸せにするために来た」
自信に満ちた表情を見せた男。
真っ黒の空を見上げ、少し笑うと眩い閃光が弾けた。
曇天が緑色の稲妻に引き裂かれる。
そこから紺碧の空が顔を見せた。
一気に歓声が沸く。
虹を見た女子高生はその美しさにまた涙を流したが、微笑みを浮かべていた。
「いい表情してるよ」
宙に浮いた男は爽やかな笑顔を見せた。
そして大きな光とともに消えた。
通行人は何事もなかったように再び歩き出した。
何故、傘を差して立ち止まっていたのだろうと不思議な様子だった。
彼女は夢ではないかと思った。
しかし、涙の最後の一滴が地面に落ちた時、それがエメラルドの結晶に変わった。
夢ではなかった。
ありがとう。
彼女はエメラルドを大切に拾い、笑顔で歩き出した。