11月7日(火)東京オペラシティ コンサートホール

昨年6月以来となるオペラシティでのアレクサンダー・ガジェヴのピアノリサイタルです。

 

 

体調不良で本年8月まで演奏活動を休止していただけに、静岡を皮切りに日本ツアーがスタートした知らせは、ファンたちをホッとさせました。

京都(10/29)のみスクリャービンのピアノコンチェルト(大阪フィル)で、静岡(10/23)・札幌(11/1)・橋本(11/3)・北九州(11/4)・東京オペラシティ(11/7)・大阪(11/11)・東広島(11/12)は以下のプログラムです。

 

ミスター・ガジェヴにとって、すべてのプログラムが日本では初めて弾く曲だと思います。

 

ピアノは前半がShigeru Kawai、後半がSteinway。

今回のツアーでピアノを替えたのはオペラシテイが初めて。

 

 

 

休憩時の交換の折には、ステージ前にスマホを構えた聴衆が群がり、後半開演時間ギリギリまで撮影会が続きました。

 

この交換は正鵠を得た選択でした。

優しく澄んだ音色のShigeru Kawaiは前半の選曲にふさわしく、特にフランクの切々としたメロディと曲調に、このピアノしかないと思わせるものがあり、『展覧会の絵』は後に複数のオーケストラ版の編曲が生まれたことが物語るように、重厚で変化に富む展開がオーケストラ的な多彩な響きとスケールを秘めているSteinwayこそふさわしいと納得できるものでした。

東京のお客様にとっては、二度おいしいというか、期待以上に贅沢なピアノリサイタルになったのではないでしょうか。

 

今回は総料理長に付き合って最前列のかぶりつきで、ガジェヴくんの演奏する姿を斜め後ろから凝視しながら聴きました。(休憩時間には人だかりで、ピアノの交換シーンがほとんど見えないのは、まあ、良いとして、足は踏まれるわ、頭にバッグが当たるわ、肩にぶつかるわ、とひどい目に会いました。笑)

 

とはいえ、かぶりつきの幸せはたっぷり味わいました。

 

休止期間中、彼がただ休んでいたのではないことを間近で確認できました。椅子のチョイスと座り方、身体の構えが以前と変わっています。椅子を高くして、やや前屈みで鍵盤への集中力が高まっているように見受けられる。変えた狙いを私ごときがわかるはずもないのですが、演奏への没入感がさらに深まったように感じられました。激しいパッセージは一層激しく、優しいメロディはあくまでも優しく美しく。

身体の構えが変わったのは、音楽的・表現的な狙いが進化・深化したということです。動きに無駄がなく凄味が出てきたと思いました。

 

最前列は音が頭の上を飛び越していってしまうのでは、という懸念はまったくの杞憂でした。むしろ、私のために弾いてくれてるような親密な感覚です。

それにしても美しい音です。ソフトペダルの扱いが絶妙です。ペダルを踏む足元も見ものでした。

 

私が今回注目したのは、選曲と曲順です。

・作曲者の生まれた年の古い順から並んでいる。意味ある曲順です。

・フランクの命日は11/8。たまたまでしょうか。それとも意図が?

・『展覧会の絵』のドラマ性が際立つ演奏。メリハリ、鮮烈です。

・ショパン弾きという固定しがちなイメージからの脱却を意図しているのではないでしょうか。

・音楽の魅力を余すところなく伝えるという演奏家としての強い使命感を感じます。

 

元々音楽の旅の案内人を自認していたガジェヴくん。彼のあふれる知性と繊細で豊かな感性に導かれて辿る旅路は、発見と驚きそして感動に満ちています。

 

 

 前半のカーテンコールで早々とブラボーとスタンディング・オベーションが出ました。プログラム終演後のアンコールは3曲。それでも拍手鳴り止まず、歓声とも驚嘆の叫びともつかない声で会場中が沸き立ちました。ロビーでのサイン会も長蛇の列です。

 

クラシカルな演奏会としては異例の熱狂振りのリサイタルでした。

今後の活躍がますます楽しみです。