2020年1月でしたか、評判の伴奏者がいると聞いて、渡辺研一郎氏が出演する合唱のコンサートへ、私は他の仕事が入っていたので、代わりに総料理長に確かめに行ってもらいました。

総料理長は、終演後、挨拶と伴奏のオファー、そして渡辺氏とツーショットの写真まで撮って帰ってきました。迷うことなく合格だったのです。

しかし、その実現には3年ほど待たなければなりませんでした。

 

クラーククラブとの初めての伴奏合わせ、それは指揮の加藤くんとの初顔合わせでもあったのですが、1曲目の前奏から豊かな音楽が流れ、団員たちを魅了しました。充実した練習が展開され、終了後は驚きと喜びの声が多数寄せられました。

 

 ”あのアップライトピアノであれだけ繊細な音が出せるなんて!”

 ”この逸材をどこで見つけてきたの!”

団員たちの感想はこの二つに集約されるでしょうか。

 

そうして迎えた2023年4月16日クラーククラブ第12回演奏会。

渡辺さんのピアノは期待に違わない素晴らしい演奏でした。

 

 

spinnotes第2回公演

交唱 -antiphona-

 

5月4日、渡辺氏の音楽性と感性の源泉を探るべく、夫婦で川越まで出かけました。

 

「交唱」聴きなれない言葉です。

調べによると、キリスト教の典礼において合唱隊が左右2つに分かれ、交互に歌うことに由来する言葉のようです。

対比・応答・交わりといったところが渡辺氏の意図、あるいはイメージではないでしょうか。

 

公演は二部に分かれ、交唱Ⅰでは渡辺氏自身が歌うグレゴリオ聖歌とサティのピアノ曲が、交唱Ⅱでは同じくグレゴリオ聖歌とシルヴェストロフの作品が交代で演奏され、渡辺氏の解説を交えながら展開する構成でした。

ウクライナ出身というシルヴェストロフ(Valentin Silvestrov)は私たちにとって初めて耳にする作曲家でしたが、親しみやすいメロディと柔らかな曲調が心に響きました。(案の定、総料理長は涙しながら聴いていたようです。)

何かを惜しんでいるような音楽に、私も心揺さぶられました。

 

渡辺研一郎氏はピアニスト・伴奏者・歌手・合唱指導者・グレゴリア聖歌研究家等、多彩な音楽的志向と才能の持ち主であることが了解される公演だったと思います。

全編を通じて穏やかさ、優しさ、そして静けさが支配していたこの時空間は、渡辺氏の人柄・個性の反映だろうとも感じました。

 

今回は渡辺氏の音楽の一端を「見た」に過ぎないと思っています。

魅力的な存在というのは、理解すればするほど謎が深まるような存在ではないでしょうか。楽しみです。