8月15日キリスト教のお祭りの日、旅回りの一座の公演中、芝居と現実の見境がなくなり錯乱した座長のカニオが、妻ネッダと不倫の関係にあった村の青年シルヴィオの二人を刺し殺すという悲惨な結末を迎えます。最後の「La commedia è finita!(喜劇は終わった)」というセリフに強いインパクトを感じました。

 

カニオは『カヴァレリア・ルスティカーナ』でトゥリッドゥを演じたアントネッロ・パロンビが引き続き歌いました。初めて聴くイタリアのテナーですが、艶やかで力強い声の素晴らしさが心を揺さぶりました。骨格と筋肉の出来が違う、とつくづく思ったことでした。

日本人の出演者と比べて特に背が高いわけではなく、かなり太めのずんぐりした初老の男性という外見ですが、歌声に耳を奪われてからは、役柄のイメージとの違和感は全く感じずドラマに没入できました。イタリアオペラはやはり声なのだ、と改めて思いました。

 

パロンビ以外はすべて日本人。歌唱のレベルも演技も水準以上で、演出家をはじめ、制作スタッフたちのクオリティを求める意識の高さを感じました。

 

演出の上田久美子氏はオペラ演出初めてとのことですが、宝塚歌劇団で十分な経験を積んで来たことは明らかで、舞台を日本での出来事と設定し、そこに“文楽スタイル”を取り入れるなど、したたかなドラマトゥルギ―で初陣を飾りました。聴き応え、見応えのある舞台だったと思います。どこか蜷川幸雄風の趣向や仕込み・匂いを感じました。一筋縄では行かない演出家ではないでしょうか。オペラに限らず、楽しみです。

 

今回の公演の一番の目的は、ネッダを演じたソプラノの柴田紗貴子さん。総料理長の同級生のお嬢さんで、私たちの後輩でもあります。美しい声と容姿、歌唱力も隙がない。実際、歌唱・演技とも世界水準の出来だったと思います。舞台姿が魅力的であることは紗貴子さんの絶対的な強みです。小さくまとまらず、体づくり声づくり、そして心づくりに励んで世界に羽ばたいて行ってほしいと期待しています。

 

柴田紗貴子さんの応援のため観にいったので、率直に云って、他に何も期待していませんでした。見せる・聴かせる・わからせる仕掛けを多元的に工夫すれば、オペラはかくも感動を呼ぶ素晴らしい舞台芸術なのだ、ということを改めて、いえ、新たに思い知らされました。

 

フライヤーに上田さんのメッセージが載っており、その最後に

”さあ、生まれるのは、失望か?希望か?”

とありましたが、もちろん

  希望でしょ!

 

私の感想を裏付けるレポートを見つけたので一読をお勧めします。

 

 

参考のYouTubeはデル・モナコの映像ナシ・対訳付きを選びました。

《道化師》にはアクが強くて泥臭いデル・モナコ盤が似合っていると夢爺には思えるので。

 

カニオ:マリオ・デル・モナコ(T)
ネッダ:ガブリエルラ・トゥッチ(S)
トニオ:コーネル・マックニール(Br)
ペッペ:ピエロ・デ・パルマ(T)
シルヴィオ:レナート・カペッキ(Br)