チャイコフスキーの世界にどっぷりつかる一時間でした。
素晴らしい楽曲と演奏に、魂が揺すぶられました。
ピアノ三重奏曲イ短調「偉大な芸術家の思い出に」、1880年過ぎ、チャイコフスキーが41~42歳の時に手掛けた作品です。音楽家として苦しい生活を強いられていた彼を金銭面だけでなく精神的にも支えてくれた大親友の死後、悲しみを乗り越えて、一周忌に完成させたそうです。
ピアノとチェロ、そしてバイオリンの三人組が挑戦しました。
なんとも複雑なメロディーで、50分を超える大作です。特にピアニストだった親友を偲んでの楽曲であるため、彼への尊敬を込めてピアノの難しいテクニックを要求される作曲だそうです。この日はピアニストがものすごい集中力で、鍵盤に向かっており、まるでチャイコフスキーの意図を120%表現するかのような流れるような音色を披露してくれました。チャイコフスキーの生前時に、このピアニストが彼の作曲を披露したら、それはそれは喜んでくれたことでしょう。
ほんのりと暗くて、でも情熱的で親友が亡くなった絶望と悲しみから曲はスタートします。第二章はロマンティックでありながら、古典的な旋律もあり、友と過ごした楽しかった日々を懐かしむような喜びが感じられます。
バイオリンとチェロがピアノの音を包み込むような演奏をします。バランスが難しそうですが、そこはプロの音楽家です。お互い息を合わせながら、強弱をかけ合わせていきます。弦楽器の音色が本当に繊細で可憐で美しいです。華やかなヴァイオリンのパッション、ショパンのワルツのようにクルクルと回るピアノの音色、クライマックスでの三人の音色が協力して終焉に向かう様は特に聞きごたえがありました。悲しみの音楽の沼にはまって出られなくなったかのような感傷的な気分になります。とても悲しくって哀れで、聴衆の誰もが、この曲によって亡くなった家族や友だちの顔を思い出すほど。涙をこらえるのに必死になりました。
一時間近くのチャイコフスキーの楽曲の演奏会です。黙とうをしたような静かな余韻に浸ることとなりました。
これがクラシック音楽の力ですよね。150年近くたっても色褪せない魅力があります。腕のいい
音楽家が演奏することで、チャイコフスキーの世界がより崇高なものへと高められていきます。素晴らしい、本当に素晴らしいコンサートでした。
嬉しいな、こんな演奏を至近距離で楽しめるなんて。そして、こんな大作を奏でることができる音楽家は、本当にすごい、尊敬です。私も心のフィルターが、チャイコフスキーの調べで清められました。