【8/20(金)公開】「第74回カンヌ国際映画祭」コンペ部門出品 映画『ドライブ・マイ・カー』(PG-12)90秒予告 - YouTube

 

 

すごくいい映画でした。作家村上春樹さんの生死文学が3時間の映像になった作品でした。ブレーメンの映画館City46で上映されています。(日本語オリジナル・ドイツ語字幕)

 

村上先生の50ページの短編が原作となっているのですが、映画では、村上春樹ならきっと書きそうだなというセリフが、脚本家によって随所に散りばめられているのが、印象的です。なので、村上ワールドを崇拝するハルキストが手掛けた映画であり、セリフも映像もすごくよく考えられていて、短編小説をより村上春樹らしく仕上げている感動作です。

 

村上春樹のファンならば、陶酔すること間違いなしの大人の映画。

ただ、彼の自殺文学に抵抗や違和感を感じる人、ハリウッドの娯楽映画を好む映画ファンには、「何がいいのかわからない?」という感想を抱かせるかもしれません。

 

 

私は村上作品は、20代に「ノルウェイの森」を流行りとして読みはじめたのですが、それからは高尚な現代文学の力作として読み続けています。よって、3時間の長い長い上映時間ではありましたが、涙をぬぐう場面が何か所もあり、終わってみると「あれ、あっという間だったなぁ・・・」という感想でした。

 

 

幼い一人娘の死

妻の秘密と突然の別れ

母から暴力を受けた娘

セックス依存症

若者の虚無感

夫婦のすれ違い

有名人の苦悩

多重人格とトラウマ

多言語&非言語コミュニケーション

人を殺した苦しみ

命を救えなかった自責の念

自己開示と自己洞察

孤独・喪失感との向き合い方

 

 

 

赤色のサーブで広島から北海道に向かうシーンでは、道中に新潟の県境である富山の日本海を左手に走る国道やスーパーマーケット「コメリ」が出てきて、「うわっ」と大きな声を出して驚きそうになりました。まぁ、とにかくそういう地味な映像も、東京のデザイナーズマンションや都会の高速道路の空撮といった派手な写実の中に対比的に混じっていて、視覚から物語の緩急を感じ取ることができます。

 

 

劇中の後半には、「他人の心を知りたければ、まずは自分を深くまっすぐ見つめるべき」というセリフが出てきます。これがこの映画で一番言いたかったことかな、と私は思いました。

 

3時間の長尺の映画ですが、ドライブを続けることでストーリーはクレッシェンドしていきます。北海道の雪景色の中、倒壊した家屋に花を投げ入れる場面で、さらにすごい過去が語られるのですが、そこで私はもう涙が止まりませんでした。繋がりを得ることで、ようやく本物の涙を流すことができた主人公に感情移入してしまったのです。

 

映画のラストシーンではコロナ禍でマスクをして韓国で暮らすドライバーみさきが映し出されるのですが、すごくいい表情をしているのです。彼女には、母を亡くした時にできた傷が顔にあったのですが、それが薄くなっているのです。ハッピーエンドの予感です。

 

「自己洞察」をすることによって、あの時の母や妻の心を知ることができ、我が気持ちに正直になり、苦しみも悲しみも時間とともに乗り越えられる、生き続けられるというメッセージ。

西島秀俊演じる主人公が心のトラブルを処理していく過程をどこまで読み取れるか、この映画を鑑賞するポイントであり、ここが判るとすごくより素晴らしい作品だと理解できます。

 

ドライブマイカーに出てくる主な登場人物全員が、「人生には、辛いこと、嫌なこと、悲しいことがたくさんありますが、とにかく生きていこう」と語り掛けてきます。パンデミックが2年続いている中で、よりこのメッセージが強く心に響きます。

 

 

素晴らしい作品でした。私がこれまで見た映画の中でも、ベストスリーにランクインしそうだな。おすすめです。日本映画として62年ぶりにゴールデングローブ賞を受賞した秀作とのこと。機会があれば是非。