あるリケジョが考えていること

あるリケジョが考えていること

どこかの理系学部に通う女子大学院生です。
専攻とは関係のない日常生活で考えていることを綴ります。
自作物語ありです。

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※この記事は物語の途中です。

「僕しか知らない無敵な彼女の秘密」(1)から読んでいただくことをおすすめします。

 

「…であるからして、私たちは教祖によって常に守られているのです。」

朝のミサ中に着信音がなった。

殺しを請け負う俺たちは、仕事前に必ず参加しなければならないという決まりになっている。

着信音で静寂を破った俺は牧師に睨まれながら教会を後にする。

「二人を消して。今度こそ、失敗しないでよね。」

それだけ言うと一方的に切られた。

「はぁ…。」

深いため息をつき、ミサへ戻る。

 

「なんかあったんすか?」

向かいのデスクから顔を覗かせ、後輩が聞いてきた。

「あのご令嬢から、アイツらを処分しろだと。」

「遂にっすか…。」

後輩も多少なりとも覚悟はしていたようだった。

後輩にとってアイツは同期だから標的になるのは気が咎めるのだろうが、俺たちがどう思おうと与えられた仕事は必ず遂行しなければならない。

それが、この組織の掟だった。

確実に仕留め、完璧にやり遂げる。

失敗したらどうなるのかは聞かされていないが、噂もたたないところを見ると、多分命はないのだろう。

後輩も俺もあまり気が進まなかったが、仕方なくアイツら周辺の情報を調べ始めた。

 

半ば強制的に仕事を始めさせられたとはいえ、〈彼ら〉の信条は筋が通ったものだと思っていた。

〈彼ら〉は正義のために活動し、社会を脅かす悪徳な輩を私たちが抹消しているのだと信じていた。

しかし、それがあっけなく、見事に崩れ去った。

彼から話を聞いた当初は正直信じられなかったが、いざこれまで〈彼ら〉にされてきたことを考えると、信じていた自分がとても馬鹿らしく思えてきた。

 

弟の大学と〈彼ら〉は、ある宗教団体の一部だった。

大学は学生たちを言葉巧みに次々と信者にさせ、入信を断った弟や彼のような学生は故意に単位を与えなかったり、家にまで行き入信するまで食事を与えない・眠らせない等と精神的に追い詰めた。

その一方で、私達のような身寄りのいない子供に目をつけ、同様に精神をえぐりながら暗殺術を覚えさせ、彼らの邪魔になる者を排除していった。

彼らはまた、政界の重鎮や大企業の上層部とも手を組んでいるため、中々警察も介入できず、いわば野放し状態だった。

そんな奴らに、和也は殺された。

 

僕の話を聞いていた彼女は、いつも通りほとんど表情を変えなかった。

しかし、僕を信じるか、組織を信じるか迷っているように見えた。

その夜、僕は珍しく夢を見た。

和也と共にサッカーをしていた。

ふと、ボールをこちらに蹴りだしながら、和也が言った。

「なあヒロ、姉貴のこと頼むわ。」

「えっ?」

「姉貴、多分あいつらに復讐する気だと思う。今なら間に合うから、お前が止めてくれないか?」

「…なんで?俺だってお前の復讐したいよ!」

「そう思ってくれるのは嬉しい。でも、俺のために、お前や姉貴が命を落とすのは耐えられない。」

「でも…」

「姉貴が俺以外にあんなにも心を開いているのを初めて見たよ。姉貴は相当お前が大事なんだな。お前は姉貴を幸せにして、俺の分まで生きてほしい。」

僕は返す言葉が見つからなかった。

「ヒロ、頼んだぞ!」

そう言って和也は消え、僕は目を覚ました。

隣で眠る彼女を見る。

彼女はまた、泣きながらうなされていた。