※この記事は物語の途中です。
「僕しか知らない無敵な彼女の秘密」(1)から読んでいただくことをおすすめします。
約束の時間の二十分前、私はあの店に着いた。
前回彼と訪れた時も早く来てしまい、彼のメンツを潰してしまったが、私の性格上、待ち合わせている相手よりも遅れて到着することは許せなかった。
店に入ると、既に彼の姿があった。
「…ごめん、遅れた。」
彼の正面に座る。
「え、まだ二十分前だよ!柚希さんは相変わらず早いね。」
彼は私が早く到着するのを見越していたらしい。
前菜が運ばれてきた。
私はそれに手をつける前に、彼に言った。
「ヒロ君、…実は、話したいことがあって…。」
こういう話はできるだけ早く済ませたい。
後にもっていけばいくほど、話しづらくなる。
一瞬、彼の表情が強張った。
話があると聞いて、胸を締めつけられたような痛みを感じた。
会って早々に切り出して、しかも彼女の表情が曇っているところを見ると、いい話ではないことは分かる。
…まさか、別れ話か?
…だからこの前の返信が遅かったのか?
途端にとてつもない恐怖に襲われたが、こう見えても僕は男だ。
まずは彼女の話を聞こうと冷静を装った。
「急にどうしたの?」
動揺するな!お前は男だろ!と自分に言い聞かせるも、冷や汗が止まらない。
彼女は少しの間口をつぐみ、組んだ両手を口に押し当て、テーブルの一点をひたすら見つめた。
これは彼女が話したくないことを話すときにする癖だ。
「…もしかして、…別れ話?」
彼女が驚いた表情を見せた。
「えっ、…ち、違うよ!」
珍しく彼女が声を張り上げた。
その声に、店中にいた人たちが僕たちを見た。
恥ずかしそうにしながら彼女が続けた。
「そうじゃなくて、…私の弟の話。」
確か弟さんはご両親と一緒に亡くなったはずじゃ…
別れ話ではないと安心したのもつかの間、僕はこれから予想もしなかったことを彼女から聞くことになる。
思いがけず大きな声が出て、私が一番驚いた。
彼は別れ話をされると思ってたのかぁ…
なぜだか少し微笑ましく思ったが、すぐにしなければいけない話を思い出し、暗い気持ちに戻った。
それから私は、彼にことの次第を全て話した。
私の弟が和也だと知った彼は、驚きや罪悪感を見せたものの、いじめっ子特有の表情は一切見せなかった。
私の話を全て聞いた彼が言った。
「…その話って、誰から聞いたの?」
「和也と同じ学科の子達と、その子達に紹介してもらった探偵さんから聞いた。」
「やっぱりか…。」
何か思い当たる節があるようだ。
「和也を救えなかったのは事実だけど、僕が和也に手を出していたわけじゃない。そんなこと、出来るわけない。和也は、僕の、人生で初めての、親友だった。…和也じゃなくて、俺が死ぬべきだったんだ。」
話していくうちに、彼の目から涙が溢れてきた。
こんな彼が、和也を死に追いやるわけがない。
私の中で、確信に変わった。
レストランの隅の席で、一部始終を見ていた男女のカップル。
「アイツも良くやるよな。」
「ほんと、演技派よねぇ。」
女性の方がどこかへ電話をかける。
「二人を消して。今度こそ、失敗しないでよね。」
その夜、私達はただ一緒に眠った。
彼から聞いた話の後では、とても愛し合う気にはなれなかった。
これからどうしようか…
とりあえず、今夜は眠ろう。
泣き疲れて眠った彼の頬に手を置き、私も眠りについた。