自作物語「僕しか知らない無敵な彼女の秘密」(1) | あるリケジョが考えていること

あるリケジョが考えていること

どこかの理系学部に通う女子大学院生です。
専攻とは関係のない日常生活で考えていることを綴ります。
自作物語ありです。

 それは、少し肌寒くなってきた頃に起きた。

この日の出来事で僕の人生は一変してしまった。

 

当時大学生だった僕は、サークルの帰りに飲み物をもとめ何気なくコンビニに立ち寄った。

よく行くコンビニだったがその日は何かが違っていた。

妙に静まり返っている店内。

よく見るとレジの店員に何かを要求している覆面の男が二名。

急に入って来た僕に戸惑いながらも覆面の一人が持っている刃物を向け、

「し、静かに地面に伏せろ!」

と言った。

僕は腰が抜けながらもその場に伏せ、両手を頭の上で組んだ。

ふと周りを見渡すと、僕と同じく伏せている客が何人か見えた。

その中の一人、恐らく僕と同じ年くらいの女性と目が合った。

彼女は人差し指を唇に当て、動き出す機会を伺うように覆面二人組を見た。

「あっ…」

どうにかして彼女を止めたかった僕はつい声が出てしまった。

それに反応した覆面二人組は揃って僕の方を見た。

次の瞬間、目にも止まらぬ速さで彼らの背後に回り込んだ彼女は、いとも簡単に二人を床に叩きのめした。

その後、鮮やかな手つきで彼らを拘束した彼女はその場にいた客たちと店員を店の外に避難させ、落ち着いた様子で警察に通報した。

その一部始終を目で追っていた僕はなぜだかとても抑えられない気持ちに襲われた。

「…あの人、好きだ。」

しばらくしてパトカーが到着し、居合わせた僕たちは警察署で事情聴取を受けた。

その帰り、僕は偶然あの彼女と駅のホームで出会った。

「あ、あの、先ほどはありがとうございました。」

音楽を聴いていたのか、イヤホンを外しながら彼女が答えた。

「あぁ、さっきの。…ああいう時は声を出しちゃいけないんだよ。…でも、君が注意を逸らせてくれたおかげで倒せたんだけど。…ありがとう。」

慎重に言葉を選んでいるのが分かる話し方がとても魅力的だ。

「あの、お、お名前聞いてもいいですか?」

勇気を振り絞り彼女に尋ねた。

「えっ…なんで?」

少し訝しんでいる様子の彼女。

「いや、変な意味じゃなくて、その…助けてくれお礼に、今度ご馳走させてもらえないかなぁと思って…。そのために、お名前と連絡先を教えてほしいなぁと思いまして…。」

急なお誘いに困惑している彼女。

「いや、嫌なら全然いいんです。見ず知らずの男と食事に行くなんて気味が悪いですよね…。」

僕はあっさり自分の提案を引き下げようとした。

「いや、…嫌じゃないんだけど、…ちょっと待って。」

彼女はそう言うと、僕から少し離れ、誰かに電話をかけ始めた。

電話越しに誰かと少し話した後、彼女は僕に言った。

「…それじゃ、ご馳走になっていい?」

はにかみながら消え入りそうな声で言った彼女が最高に愛おしかった。

「はい!任せてください‼…ところで、お名前は…」

「あっ、ごめん!…内野柚希です。」

「柚希さん。僕は松岡浩です!」

こうして僕らはお互いの連絡先を教え、一週間後の土曜日にディナーの約束をした。