明日、自宅に帰る。


父と母との3人暮らしも

明日までだ。


いつも私が実家にきたときは

祖母の仏壇のある和室に寝ていたが

今回初めて父と同じ部屋に寝た。



22時前に寝た父が

24時前に小さな声で


奥さん?キョロキョロ


と母に呼びかける。


ん?

何?お父さん。照れ


と私が答える。


トイレに行こうかな照れ



はいはい。


ズボンを脱がせて

電気をつけて

手を引いてトイレへ誘導。


パンツひとつなら

父は自分で

トイレが出来るようになった。


入院していたときは

トイレにいくときも

看護師さんを呼ばないとダメだった。

しばらくは車椅子で。

退院前は歩行器で。


家の中も

テーブルや椅子の背を

伝いながら

ゆっくりしか歩けない。


夜中のトイレのときも

几帳面な父は

きちんと手を洗う。

タオルを渡す。

トイレの電気を消す。



お水飲む?


うん、すこし飲もうかな。


あのねえ

私が何でお母さんと結婚したか

知ってるか?チュー


水をコップにつぎながら答える。


知ってるようウインク

笑顔が良くて。

健康で

賢かったからでしょう?


もう何十回も

ひょっとしたら

100回ぐらいしたやりとり。






そうなんだよ!お願い


はいはい。

コップちょうだい。

さあ、ズボン履いて寝よう。


立ったままではズボンが履けない父を

1度椅子にゆっくり座らせてから

パジャマのズボンを履かせる。


まだ夜中だから

もう少し寝よう。


そうか。

じゃあ寝よう。




次は2時頃。


お母さんは?キョロキョロ


の声でぱっと目が覚める。


はいはい。トイレ?

私と行きましょ照れ



お母さんはね

本当に賢いんだぞー。


私がなんでお母さんと

結婚したかっていうとさ。


賢いからと

あと、健康と笑顔でしょー?えー


そう!

よく知ってるな。お前キョロキョロ


そうだねー。

はい、ズボンぬぐよー。




そして4時。


トイレに行こうかな。


最早、私は

寝るのを諦めて

2時からずっとスマホを

いじってた。


はいはい。行きましょウインク


おはよう!ニコニコ


いやまだ4時だから。お父さん。

おはよう!じゃないから笑い泣き


はい、ズボン脱ぐよー。




結局、そのまま眠れず5時に

布団から出た。


こりゃ、大変だ。お母さん。

いつもは80超えてる母が

これ、やってるわけだ。


寝不足は身体に悪いよね。。。

昼間うとうと

うたた寝するのも

無理ないわ。。。。


これやりながら仕事は

なかなか大変だった。


息子の3時間おきの授乳期を

思い出す。

断乳までの1年3か月、

復職してからも

こんな感じだったよな。


あのときも本当に大変だったけど

当時より私も30年ぐらい

年取ってるからなー笑い泣き



今回たったの13日間。

でも前回以上に

母の大変さがわかった日々だった。


父はいつも明るく元気にしているし

冗談も言ったり

ふざけたりしている。




でも今日

私と父のふたりだけだったときに


前は出来ていたことが

なんでか出来なくて。

わからなくなっててな。


怖いんだよショボーン


と私の顔を

じーっと見ながら

父がポツンと言った。


いつもふざけてる父とは違う

迷子のような顔だった。



お父さん!大丈夫だよ。

あのね。

4月に来た時より

お父さん、色んなことができるように

なってるよ?


時計も読めるようになったよね。

スマホもこの前触ってたじゃん。

テレビも見られるようになったしね。


大丈夫だよ。大丈夫。


私はどう答えていいか

わからずに、ひたすら

大丈夫!とくり返すが

父の悲しそうな

寂しそうな顔は変わらなかった。


本当に怖いんだな。

不安なんだな。


少しわかってきたから

なおさら

不安なんだろうな。


だからそんな不安を

紛らわすために

ふざけたり

冗談言ったりしてるのかも

しれないな。



お父さん。


また来るから。

8月か、9月か。


きっとそのときは

もっと出来ることが

増えてるはずだよ。


ね?

お父さん。