お母さんに
なんで私と結婚したのか
理由を聞いてごらん？
これは
何度も何度も
同じ話を繰り返すようになった
父の
今のお気に入りのネタだ。
答えはわかってるけど
私は初めてのような顔で
母に聞く。
ねえ
お母さんは
なんでお父さんと
結婚したの？
母は
すました顔で
成り行きよ！
成り行き！
と答える。
父は
ね？ひどいだろう？
成り行きなんて
言うんだぞ。
と憤慨する。
私がなんでお母さんと
結婚したのか
知ってるか？
父がもったいつけて聞く。
これまた答えは
何度も聞いて知っているが
私はぜひ知りたい！
興味津々という顔で
え？お父さんは
なんでお母さんと結婚したの？
と聞く。
父は待ってました！
という感じで
指を折りながら
おごそかに答える。
あのね
私がお母さんと結婚した
理由は3つある。
まず健康だったこと。
そして賢かったこと。
最後に笑顔が良かったこと。
会ったときに
この人だって思ったのよ
父と母は
お見合い結婚だ。
正確にはお見合いというか
父の家と母の家の
両方に出入りしてた方が
いいお嬢さんがいるから
息子さんにどうかしら？
と父の母、
つまりは私の祖母に推薦した。
母は
ある日おばあちゃんが
私の職場に偵察に来たの
と笑う。
預かり物を
祖母と紹介者に
渡すように言われ
職場で2人に会った母は
知らない間に祖母に
品定めされていた。
母は学生時代に
成績が抜群に良く
かけっこも早かった
オール5の優等生。
母方の祖父母に厳しく育てられた
しっかり者の長女。
父は
授業をサボって
映画ばかり見てた学生時代を経て
働き出したばかりの
まあまあ古い家の次男坊。
次男坊の父には
こういうしっかりした
お嫁さんがよい！
と祖母がまず母を気に入り
母は
父の家のパーティに
招かれた。
2人はそこで
初めて出会ったのだ。
クリスマスイブの日に。
なあ！
成り行きなんて
ひどいだろ？
大谷翔平が
グラウンドに落ちてるゴミを
拾ってポケットにいれるだろ？
通りがかったところに
私が落ちてたから拾って
ポケットに入れたってことよ、
お母さんはさ！
成り行きってことはさ！
父が怒ったふりをする。
でもほら
大谷翔平はゴミ拾いして
徳を積んでるらしいから
お母さんはお父さんを拾って
徳を積んだってことじゃない？
成り行きでさ
ねえ、お父さん
成り行きで
仕事人間で
時々怒りん坊で
めんどくさい所もある
お父さんと
60年近くも
一緒になんていれないよ。
紹介してくれたおばちゃん
この人よ！と
父の結婚相手を
勝手に決めたおばあちゃん。
2人を出会わせてくれて
ありがとう。