注意 当、二次創作小説(シナリオ)を初めて読まれる方は先にこちらをごらんください。
南の島にて with 三池亮太②
~ Southern Island's requiem ~
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《ダーリンは芸能人》二次創作短編
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ホテルに到着してから慌ただしくも打ち合わせが始まった。
日本でロケに関する打ち合わせはほぼ終わっており、既にクランクインして幾つかのシーンは撮り終えているから、今回はその後に発生した修正箇所の確認とエキストラとして協力してくださる現地の方々との顔合わせだ。
何度か海外ロケを経験している wave のメンバーやスタッフさんたちによりそれはスムーズに行われた。
「では、よろしくお願いします!」
そして、無事終了した後は解散…となるはずだったけれど、まだ日は高く、現状確認の意味も含めて希望者だけで撮影に使う場所を訪れてみようということになった。
それに希望したのは私と亮太くんの他に、一磨さんに翔くん京介くん、一部のスタッフさんたちだ。
部屋に戻るという義人くんを「和を乱すな」という理由をこじつけて京介くんが引っ張っていく。
最終的に同行人数は12人となり、全員が用意されたマイクロバスに乗り込んだ。
この島には先の大戦で付けられた大きな爪痕が未だに残っている。
弾痕の残る建物や洞窟に作られた司令所みたいなもの。
途中で動かなくなったのか打ち捨てられたように広場の真ん中に佇んだままの戦車には植物が繁っている。
それらの一部は今では観光地や観光資源として整備されてはいるが、全てをただ過去のものとするのは早計だ。
当時ここに生きていて、迫り来る死の恐怖に怯えた人たちは確かに存在したのだから。
それからまた何ヶ所かを回り、最終的にちょうど夕陽が見られる場所へと向かう。
「わぁ……っ、すごい……!」
バスを降り、鬱蒼と繁った森を抜けると一面開けた場所に辿り着いた。
空と海が織りなす、感動するほど美しい景色が見られる断崖絶壁の丘。
だけどここにも、同じく戦争の爪痕が残されている。
相手国の侵攻により制圧されることが確定した時に投降を勧告されるも、ここから身投げした人たちが多くいたというのだ。
その中には、子どもを抱えた母親もいたのだとか。
私にはその心理状態は想像しか出来ないけれど、ただただ悲しくて胸が締め付けられるばかりだ。
(どうか、戦争で苦しむ人が居ない世界になりますように)
目の前に広がる戦争の爪痕に、私は心からの鎮魂の意と平和への祈りを捧げた。
崖の向こうに見える水平線に向かって、周りの空を茜色に染めながら金色の太陽が降りていく。
そろそろ戻ろうと言うスタッフさんに従ってその場所を離れようとしたとき、ふと目の端で何かを捉えた。
人だ。
(あんな所に立って…危ないなぁ。
ってか、あの人、柵を乗り越えたの??)
観光地にもなっているためかその場所には転落防止用の柵が張り巡らされている。
その向こう側にその人は居たのだ。
思わずジッと見ていると、私の視線を感じたのかその人は不意にこちらに顔を向けた。
不躾な視線だと憤ったのか、驚いたような怒ったような表情をしている。
謝罪の意味で少し頭を下げて会釈してからまたそちらを見ると。
「えっ!?」
その人はそこから居なくなっていた。
柵を乗り越えてこちら側に戻ってきたのかと思ったけれど、辺りを見回してもその人の存在が認められない。
駐車場に向かう道は1本しかなく抜け道もないようだ。
ついでに言うと、この周辺には人が居るような建物もなかった。
「海尋ちゃん? どーした??」
「えっ、あ、あの、あそこに人が居た…んだけど……」
京介くんが固まった私を見てそう尋ねるから、消えた人が居たはずの場所を指差す。
私の指先の方向を目で辿り、そこが本来なら人が居るはずのない場所だと分かると彼は笑いだした。
「海尋ちゃん、目ぇ開けながら夢でも見た?」
「えっ、い、いや、確かに男の人が」
「いやいやいや。 あんなトコ、柵を乗り越えないとムリっしょ」
「ほ、本当に居たんだってば!」
「じゃー、幽霊だー」
「きょ、京介くんっっ! 私がオカルト話がダメの知っててそんなコト言う?!」
「あはは、そーだったそーだった。
……亮太ぁ、海尋ちゃん、何か疲れてるみたいだからおんぶしてあげなよー」
ケタケタと笑いながら歩いていく京介くんと擦れ違うようにして亮太くんが走ってきた。
「なに、また京介にからかわれたの?」
「違うの。 あの…」
柵の向こう側に男の人が居て、その人が消えた……なんて言ったら亮太くんにまた弄られるんじゃ…?
そう思った私は口を閉じた。
「……ごめん、何でもない」
「そ? じゃあ、行こ」
亮太くんは気にも留めない様子で私に手を差し伸べる。
「……うん」
差し出された手のひらに自分のそれを重ね、私たちは手を繋いでその場所を後にした。
空と海の境界に太陽が隠れようとしている。
亮太くんの大きな手のひらに安心した私は近くにいた義人くんの瞳に冥い色が広がっていることに気が付かなかった---。
~ to be continued ~