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Staticeの花言葉とともに with 中西京介94
~ダーリンは芸能人・妄想2次小説43~
夜に始まった撮影はビルの屋上だけでなく、対岸に煌びやかな夜景を見渡せる公園、そして都心から離れた海岸でも行われた。
都心から1時間ほど離れただけの海岸の頭上には、街の明かりに邪魔されない星が瞬いている。
「お疲れ様でした、オールアップです!」
監督のその声に全身から力が抜けていく。
それを支えてくれたのは、お互いに喰うか喰われるかの如きの『大人の駆け引き』を演じた香月さん。
ふと顔を上げると、香月さんは破顔一笑で私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「わ、ちょっと!」
「お疲れ! よく頑張ったな!」
「あ…、はい、ありがとうございます!」
「で、だ。 オレは編集作業に付き合って撮影班と戻る。 お前は迎えを呼んでるからそれで帰れ」
「え、でももう少しで始発が出る時間だからそれで帰りますよ」
「ばか言え。 まだ真っ暗なのに駅まで一人で歩かせられるか。
あ、迎え、もう駐車場に着いてるみたいだな。
じゃあな、プレスの日はよろしくな!」
「香月さん!」
私の呼びかけに振り向いて手を振っただけで香月さんは慌しく撮影班の中に入っていってしまった。
仕方なくロケバスの中で帰り支度を済ませて海浜公園の駐車場へと向かう。
と、撮影に関係する車から離れて1台、見慣れた車がそこにあった。
そしてそのそばには―――。
「京介くん!?」
私の声にスマホをいじってた彼がこちらを向いて、笑みを浮かべた。
「おつかれさま、海尋」
「ありがとう…って、どうしてここに?」
「香月さんから連絡もらって。 ココで解放するっていうから」
「それで迎えに来てくれたの…?」
微笑んで頷く京介くんに私は思わず飛びついた。
お仕事で疲れてる中、大好きな人に思いもかけない場所で会えたことは最高の疲労回復剤だった。
「ありがとう! うれしいっ!!」
ぎゅっとしがみつくように腕を回せば、京介くんも同じように抱きしめ返してくれて。
それだけで一気に疲れが吹き飛んだようだ。
彼の腕の力が少し緩んだかと思うと両方の手のひらで頬を包まれ、リップ音を立てて額やこめかみにキスされた。
「ふふっ、くすぐったいよ…」
「……ね、海尋。 ちょっと砂浜歩いてみたい」
「いいよ、行こう」
私たちは手を繋いで砂浜へと足を向けた。
撮影の仕事で散々歩いた砂浜も、京介くんとこうやって歩いていると何だか景色が違って見える。
頭上の星の輝きはさっきよりもさらに輝いているように見えて。
身体を撫でる海風はずっと優しく感じて。
耳に届く波の音はずっと穏やかに聞こえて。
同じ場所にいるのに、一緒にいる人が違うだけでこんなにも違うように感じるなんて…。
全身が幸福感に包まれていたとき、京介くんはふと足を止めて私の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
私の問に答えずに一度深呼吸をして、真剣な表情を見せる。
「京介くん…?」
「…前に言ったよね、恋愛に深く関わることを避けていたオレにもう一度恋をさせてくれたのは海尋だってこと。
キミを必ず幸せにするとも言った。
あれから何年も経って、二人の関係が危なくなったときもあったけれど、海尋はずっと待っててくれた。
本当にありがとう。 これからもずっと愛してる」
「え…」
京介くんが紡ぐ言葉に、何が起きているのかわからなくなって。
私が少しパニくっている間に、京介くんはポケットから何かのケースを出して、それを開けて見せた。
「紫藤海尋さん、これからの一生を掛けてあなたを幸せにすると誓います。
だから―――オレと結婚してください」
「……っ!!」
時間が止まったかのようだった。
そして、世界には私たちしかいないような感覚。
開けられたケースの中には、繊細なデザインの指輪が輝いている。
「京介くん…」
「海尋、返事聞かせて?」
「……聞かなくても分かってるくせに…」
そうイジワルを言うのが精一杯で。
京介くんは微笑むけどそれには答えなかった。
だけど一緒にいる時間が長いせいか、彼が少しだけ緊張しているのが分かる。
私はあふれてきそうな嬉し涙をこらえて、京介くんに頭を下げた。
「…はい。 どうかこれからもよろしくお願いします…」
そう言って顔を上げると同時に、涙が頬を伝っていった。
「み、海尋?」
「ごめん、嬉し涙なの…。 本当に嬉しくて…。
だって京介くん、みんなの前でずっと結婚の話題を避けてたから…てっきりその気がないんだと…」
「あ、あれは…その…」
「?」
焦る京介くんに首を傾げる。
すると彼は一つ咳払いをして、夜目にもわかるくらい顔を赤くして言った。
「ずっと考えてなかったわけじゃないんだよ…。 プロポーズって一生残るでしょ?
だから場所とかタイミングとか考えてて。
でもみんながからかうように言ってくるし、他の人に言われたから言うってのもシャクだったし」
「そ、そうだったんだ…」
「…ようやく言えた…、つか、言えてよかったよ…」
京介くんは本当にホッとしたような顔をした。
それからケースの中の指輪を摘むと、まるで結婚式のように恭しく私の左の薬指にそれをはめる。
「きれい…」
「どう? 気に入ってくれた?」
「うん、とっても!」
そのとき、空が少しだけ暗さを和らげていることに気付いた。
ふと時計を見ると、あと少しで黎明といわれる時間が始まる頃だ。
「そろそろ帰る?」
再び手を繋いで海岸を歩いているときに京介くんがそう尋ねた。
だけど何となくまだ歩いていたくて、私は首を振った。
「…もう少しだけこうしていたいな」
こうやって話している間にも刻一刻と空は明るさを取り戻していき、同時に海の向こうが少しずつ暖かい色に彩られていく。
やがて、空と海の境界線である水平線が金茶の色に縁取られたかと思うと、太陽が昇ってきた。
「京介くん、日の出だ…!」
「おお…すげぇ…」
横を見ると暖かい色の光に京介くんの顔が照らされている。
その顔はとても穏やかで。
私の心は、これから先の一生を大義名分ともに京介くんと過ごしていける喜びに震えていたのだった。
~ to be continued ~